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放送局の「株式保有問題」に対するもう一つの見方(2/2 ページ)

» 2004年12月17日 10時44分 公開
[西正,ITmedia]
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 しかし、地域間の情報格差の是正ということから、全県3局化、全県4局化といって、経済合理性を無視した形で、次々と新局の設立が行われてきた。これを推し進めてきたのが、他ならぬ旧郵政省なのである。省庁が統合されたからと言って、総務省がそうした過去の経緯に目をつぶってマス排を持ち出してくるとなると、放送局側からすれば、まさに“はしごを外された”ようなものなのである。

 実際、新局を設立するにしても、経済的に成り立たないことは明らかなケースは多々見られた。それでも新局を設立しようとするのならば、組み込まれることになる系列のキー局、および、その背後にある新聞社が責任を負わざるを得なくなったのも無理はないのである。

 経済的に成り立ちにくい会社を作るのだから、そう簡単に株主が集まることなどあり得ない。第三者名義で保有せざるを得なかった理由は、「外部からは見えないように放送局をコントロールするため」ではなく、そうした形でなければ株式の受け皿がなかったため、ということが十分考えられるのである。今回の一連の問題が起きた背景には、そうした事情があるのだ。

結果として、言論は偏重したか?

 マスメディア集中排除原則がザルだったのではないかということは、今回明らかになったように第三者名義のものを含めれば、規制の20%を超えていたにもかかわらず、規制の趣旨にあるような言論の偏重が本当にあったのか、という点からも明らかである。

 つまり重要なのは、今回の問題が明るみに出て、「どうりで偏っていたわけだ」と納得した視聴者がどれだけいたのかということなのである。取り立てて不都合に思えるような言論の偏重がなかったのだとすれば、それは規制自体が形骸化しているということの証左なのではないだろうか。

 それでも法改正がなされていない以上は、20%規制に抵触することは許されない。各社が是正に向かって動きだしたのも当然のことである。しかし、肝心の言論の偏重が見られなかったとすれば、規制の方を実態に合わせて変えていくという作業が、行政側には強く求められて然るべきなのではないだろうか。

 同規制が制定された頃と今とでは、社会情勢も大きく変わっている。携帯電話やPCの急速な普及により、インターネットの利用者も急速に膨れ上がっている。インターネットから情報を収集している人の数の方が多くなっていると言っても過言ではない。

 新聞、テレビ、ラジオがメディアの中核であると考えられていた時代ならともかく、現在では放送局の出す情報によって、言論が一方向に偏っていくことなどあり得ないのではないだろうか。規制の趣旨からすれば、放送局が発信しているエンターテインメント系の番組は対象外であり、あくまでもニュースや情報系の番組が問題になってくると思われるが、そうであるとすると、なおさら放送局よりもインターネットを警戒した方が、合目的的であるとさえ言える。

 それに加えて、ほんの一年前頃には、デジタル化投資負担の重さによって経営が難しくなってくる放送局同士が合併する道を選択できるようにと、マスメディア集中排除規制の緩和が検討されていた、という事実がある。ところが、合併・統合をしなくともデジタル化投資を乗り切れる見通しが立ってきたせいか、いつの間にか規制緩和の問題は棚上げ状態になって放置されたままである。

 同規制の趣旨からすれば、経営上の問題を乗り切るために規制の緩和を行うというのは、筋違いの話だ。あくまでも言論の多様性を担保するものでなければいけないはずである。それにもかかわらず、経営上の問題を理由に規制緩和を検討していたということは、行政サイドからしても、今の20%という数字に確固たる根拠が見られないことを認識していたからなのではないか。

 そうした一連の背景を振り返ってみると、今回の問題と、それを是正するための努力は、一体何を目的に行うのか、非常に理解に苦しむことになる。形式的につじつまを合わせることで、行政が何らかの前向きな対応を採ったなどと評価することなどできるはずがない。

 デジタル化投資が重く圧し掛かってくる時期に、ローカル局の株式を何としてでも本当の第三者に譲渡することは難しいことである。行政が数字のつじつまを合わせるために、そうした無理強いを行うことによって、放送局の株式がとんでもない事業者の手に渡ることになったら、それこそ言論の自由が危ぶまれることにもなりかねない。

 規制産業であるだけに、規制の数字が最優先で正当化されることは、やむを得ないことだ、しかし、大手新聞社や大手放送局が実質保有する株式数を減らすことによって、何か非常に良い指導がなされたなどと勘違いされては大変である。行政当局にそうした認識が欠如しているとすれば、その方がよほど大問題だと言えるのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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