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マージンの広さで“余裕”を追求する三菱化学メディア年末、このDVDメディアで映像を残す(4)(2/2 ページ)

» 2004年12月20日 18時04分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 「アゾ色素は耐光性に優れていることが特徴で、長期保存にも向く色素だと考えています。CD-Rの時代からアゾ色素を使っていますが、DVD製造用として外販を開始した際には、世界市場シェアが8割に達したこともありました。DVD製造におけるスタンダードの色素といえるでしょう」(太村氏)

 アゾ色素とは、アゾ基(-N=N-)を発色団としてもつ染料の総称。太村氏も言うように光メディア用色素としては耐久性・耐光性に優れるのが特徴で、「すべての色素をテストした上で、アゾ色素の採用を決定した」(内野氏)そうだ。

 「今だから言えますが、CDレベルではフタロシアニン(アゾ色素と同じく光メディアの記録膜に用いられる材料の1つ)でもアゾでも問題ないと思っていました。しかし、短波長の記録(注)についてはアゾの方がより優れた特性を発揮すると確信していました。下地とでも言うのでしょうか、ベースの部分からしっかりしているのが当社製メディアの特徴です」(内野氏)

注:CDに比べてDVDはより短い波長のレーザーで書き込みを行う(CDは785ナノメートル、DVDは655ナノメートル)

 「メディアそのものの製造技術については各社が常に競争をしていますから、最新製品について製造過程から来るクオリティの差はあまりないと思うのです。ですが、材料メーカーという基盤を持ち、素材の研究を続けてきたこと。それに、メディア専業メーカーであるために、世界中のドライブメーカーから情報が入ってくること、この2つが当社の特徴です。やっていることは他社と同じかもしれませんが、そうした細かな積み重ねが当社の強みです」(内野氏)

 アゾ色素の開発は今から12年ほどの前のころだそうだが、現在に至るまでも高速記録などに対応すべく、改良が続けられている。パワーマージンの拡大もそのひとつで、8倍速対応のDVD+R/-Rにはより広いパワーマージンを持つ改良型の色素「ダイン・アゾ」が使用されている。

 「高速化対応だけを求めるならばそう難しいことではありません。しかし、ドライブごとのレーザーパワーの差を吸収し、高速記録時にも安定した記録を行うにはパワーマージンの広い色素が必要になります」(内野氏)

 また、同社のDVD+RW/-RWに使用されている相変化記録層「SERL」は結晶核を持たないため、外的要因によって結晶化が進まない(そのために高いデータ保存安定性を誇る)という特徴を持つ。

 こうした化学メーカーならではの下地(色素)への飽くなき追求が、同社メディアのクオリティを高めている要因のひとつであることは想像に難くない。

基礎性能を磨き、多層メディアも早期投入を

 MOの時代から培われた製造技術と、「高感度と保存性」という相反する要素を高い次元で実現する色素の開発技術。同社のメディアを一言で表現するならば、この2つを基盤とした「“当たり前のことを当たり前に”できる基礎性能の高いメディア」といえるだろう。

 しかし、こうした技術は基礎性能の向上こそ実現するものの、基礎の部分であるがゆえにユーザーの目にはなかなか留まりにくい。他社がPRする、ハードコートなどの表面処理による「保存性の確保」について同社はどう考えているのだろうか。

 「ハードコートについては、もちろん社内でも議論があります。他社との差別化という意味で大きな意味を持つことは分かりますが、個人としては、そう重要なことではないと考えています。(ハードコートが)アピールしやすい要素であることは分かりますが、用途次第ではないでしょうか。技術的には実現可能ですから、マーケットからの要望があれば取り組みます」(内野氏)

 記録面への保護を早急に導入する必要はない、というのが同社の判断だが、保存の安定性を強化する方法は何もコート処理だけではない。帯電性を下げてホコリを付きにくくする(ホコリによって傷が付くのを防ぐ)、紫外線カット機能を組み込こむ(光によるデータ破損を防ぐ)、記録面の潤滑性を高める(汚れを付きにくくする)などの手法を既に取り入れている製品は存在している。

 「“何年保存できます”とはっきりとしたことを申し上げられませんが、日本のみならず世界各地の環境を加味した上で試験を行っています。それに、アゾ色素は耐光性が高いので、UVカットなどの機能をあとから加える必要がないのです。熱についても、色素が変化する温度を100度以上に設定してありますから、少々の熱を加えたところで保存性には影響ありません。耐久性については自信があります」(内野氏)

 メディア自体の素材であるポリカーボネートは80数度で変形を始めてしま。だから、熱に関して言えば、メディア自体が歪んでしまうような状況下でもアゾ色素はデータを保持しているということになる。

 「アゾ色素は記録・再生のクオリティも高く保持できますし、耐久性も高いです。非常にバランスの良い材料だといえるでしょう」(内野氏)

 こうした基礎技術の高さを武器に、同社ではさらなる挑戦を続ける。現在、規格策定が進められている2層のDVD-R(DVD-R DL)もそのひとつだ。

 「DVD-R DLの製造はもちろん計画しています。出すときにはトップで出したいですね。2層は技術的にかなり高度なものですから、現在製造しているDVD+R DLについても、ちょっとやそっとではマネできるものではありません。DVD-R DLの規格が策定され次第、製品を投入するつもりです」(太村氏)

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