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ソニーブランドをさらに高める“Like no other”戦略米国市場に見る“テレビのこれから”〜後編〜(1/2 ページ)

» 2005年01月19日 17時16分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 ソニーは長らく、米国での拠点をニューヨークにほど近いニュージャージー州に置いていたが、昨年、西海岸へと本拠地を移動させた。ニュージャージーには現在も大きな組織が残っているが、経営拠点はニュージャージー州から対角線上正反対にあるカリフォルニア州サンディエゴへと大移動させ、同時に大きな組織変更も行っている。

 組織大改革の意図とHD(High Definition)化で注目される米国テレビ市場について、Sony Electronics社長の小宮山英樹氏に話しを聞いた。

組織のスリムダウンでIT企業並みのスピード経営を

 ソニーが米国進出をはじめて50年余り。米国市場における成功と比例するように、進出の拠点としていたニュージャージーの組織インフラは拡大していった。しかし、昨今は扱い製品の品種が多いこともあってか組織が大きくなりすぎ、拡大というよりは“肥大”と言える状態になっていたのかもしれない。

 「米東海岸はソニー米国進出の拠点で、そこには巨大なインフラがありました。しかし50年のインフラはとてつもなく巨大でもあったのです。そこでこれを再構築し、サンディエゴへと集中させました。副社長クラスがおよそ20人も入れ替わる大きな組織改革です。この改革の目的は、組織全体の体質改善が目的です。我々は家電業界の企業ですが、IT企業並みのスピード感ある経営が可能な企業体質へと改善することができたと思っています」

 こうした荒療治とも言えるほどの急激な“体質改善”が必要になったのは、市場の性質が、かつての家電業界とは変わってきたためだという。アメリカの北東の端から南西の端へ。正反対の土地に移動してまでの組織改革。その動機はアナログからデジタルへの技術的変化に伴う経営環境の変遷である。

 「家電業界は、アナログ技術からデジタル技術へと大きく変化しました。技術的な違いに対応するため、ソニー全体の開発体制や投資に関しても見直しが行われました。しかし技術的な違いだけではなく、市場の変化も伴っています。デジタルの世界では、それまで名も知られていなかったような企業が、そして家電技術のインフラがない国からでもどんどん参入してきます」

 「以前の家電業界は、種を蒔いて芽が出てきたら大切に育てて刈り取る業界構造でした。しかしデジタル化された現在の家電業界は、新しい市場の芽吹きをいち早く見つけ、ハンターのように狙いすまして市場を奪わなければ他社との競争に打ち勝って行けません。サンディエゴへの移動と、それに伴う大きな組織改革、そしてスリムダウンは、そのためのものです」

“ソニーに対する米国市場の評価は変わっていない”と小宮山氏

 放送のデジタル化、デバイスのデジタル化と共に参入企業が相次ぎ、昨年に引き続いて活況を呈している。中でもプラズマテレビにおいてDellが仕掛ける低価格化の圧力には目を見張るものもある。

 「家電業界に長く取り組んできた企業ではなく、IT業界からやってきた家電製品がうまく行くかどうかにはまだ疑問があります。家電に対して長い時間をかけて取り組む必要があるでしょう。加えて、ソニーブランドに対する米国の消費者の評価は変わっていません。一般調査会社によると、どの調査結果でも家電製品で最も人気の高いブランドは“ソニー”です。米国での絶対的なブランド力があるからこそ、SXRDを使ったリアプロTVも米国で最初に発売したのです」

 日本ではソニー神話の崩壊が声高に叫ばれ、最近はライバルの松下電器ばかりが持ち上げられているが、北米ではまだまだソニーブランドの強さは衰えていないというわけだ。このブランド力は、他のライバルが持ち得ていない宝物のようなものである。

 「ソニーは今、北米で“Like no other”というブランディング戦略を行っています。単にかけ声だけではなく、実際の製品についても“Like no other”(唯一無二)であることを重視していく必要がありますから、いつも製品担当者には『これはLike no otherなのか?そうじゃないならば、市場に出す意味はあるのか?』と声をかけています。ヒット商品を後から追いかけて作るようでは、決してビジネスはうまく回りません。一番最初に新しいタイプの製品を出す会社でなければいけません。以前にもOne and onlyといったキャッチフレーズを使ったこともありますが、そうした要素がソニーらしさを維持するために必要です。このLike no otherというメッセージは、現在、ワールドワイドで展開するべく準備を進めているところです」

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