わが国におけるVODサービスは、まだまだ始まったばかりである。ブロードバンドの普及に伴って、その回線上で映像サービスを展開することを目的に有線役務利用放送事業者が続々と登場してきたが、VODにはIPベースでの映像配信サービスの目玉として大きな期待が寄せられている。
ただ、VODサービスを成功させるためには、“利用可能者”がいくら多くても仕方がない。当たり前の話だが、利用者自体が増えないことにはビジネスとして成り立たないのである。
わが国はといえば、ブロードバンド自体は広く普及したものの、それを使って映像配信サービスを受けるための、有線役務利用放送事業者ごとのセットトップボックス(STB)は、持っている世帯の方がまだまだ珍しいという状況にある。そういう意味では、利用可能者すら少ないのが現状だ。
その理由の一つに、認知度が低いことがあることは言うまでもない。サービスのネーミングとして、VODでは意味が分からない人も多いと思われるため、「電子レンタルビデオ」と称したりもしている。だが、それでもピンと来る人は現状では少ないだろう。
VODの“普及用ネーミング”にも拝借されている実際のレンタルビデオサービスの方だが、こちらは逆にVODサービスが普及すれば、トレードオフの関係になりかねないと、現段階でもVODに対し警戒感を持っているようだ。それでも、一般のユーザー側からは相変らず、「レンタルビデオ店を利用する方が簡単」という認識が強く持たれている。
VODサービスを提供する側からすると、レンタルビデオ店によるサービスを上回るポイントとして、新作が棚に並んでも早い者勝ちでなかなか借りられないといったことが起こらないこと、そして何よりも、延滞が起こらないことをアピールしているが、それでも取って代われないのが現実だ。VODサービスの現状は、“普及のスピードが思わしくない”というより、“普及が初期段階から止まってしまって動かない”という表現の方が正しいくらいだ。
なぜVODサービスは普及しないのだろうか?
明らかに便利なサービスであるにもかかわらず、右肩上がりの普及に向かわない最大の理由として、筆者は、一般のユーザーにとって、サービスを受けるまでの制約が大きいことが挙げられると思う。
すなわち、特定のブロードバンド回線とセットでの利用というスタイルになっているため、自分が利用しているブロードバンド環境を変えることなく、VODサービスが受けられるかどうかが今一つ明確になっていないのである。
そもそもVODサービスを提供している事業者自体が、有線役務利用放送事業者や、大手のケーブルテレビ局だ。彼らにとってのVODサービスの位置付けは、あくまでも特定のブロードバンドの新規加入者を増やすための道具立ての一つに過ぎないように、はたからは見える。
既に特定のブロードバンドサービスを利用しているユーザーの場合、その事業者からの乗り換えを行わずに、VODサービスが受けられるのならば、問題なさそうに見える。だが、サービス提供者が新規加入者増加策と位置付けられているだけに、既に利用してくれているユーザー向けのアピールには、今ひとつ力が入っていない側面が見られる。残念ながらこれは事実だ。
また、こうしたサービスは通常、口コミによって利用者が広がっていくものだが、誰もが同じブロードバンド回線を利用しているわけではない、という問題もある。「友人A」から便利なサービスであると聞いた「友人B」が自分も利用してみようと思っても、「友人A」と「友人B」が使っているブロードバンド回線が違っていたら、同じサービスは受けられない可能性が高いからだ。
その結果、口コミによって広がっていくことは難しくなる。サービスのスタート時にこういう状況では、そのサービスの普及が止まってしまったとしても致し方ないだろう。
サービスの提供者側がバラバラでは困るし、あくまでも回線の新規加入者を募るための道具立てと位置づけていたのでは、こうした状況を改善するのは難しくなる。
そうした状況の中にあって、ベンチャー企業であるデジタル・ネットワーク・アプライアンス(以下、DNA)が始めた新たなVODサービス「でじゃ」は注目に値する。最大の特長はブロードバンド回線の種類を問わないことである。
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