2月28日から2日間開かれる「アジア オンラインゲーム カンファレンス2005」(主催:ブロードバンド推進協議会)のセッション「オンラインゲーム研究の新地平を切り拓く」で、MMORPGの教育効果をはかる実験が紹介される。
東京大学やコーエーなどが協力し、日韓共同で行う。オンラインゲームに、学習意欲やコミュニケーション能力を高める効果を仮定し、教育ツールとしての利用価値を探る。「中毒になる」「暴力性が高まる」といったマイナスイメージに対抗できる効果を実証したい考えだ。
実験は、公立・私立の高校の協力を得て実施する。「情報」の授業で歴史物のオンラインゲームをプレイしてもらい、歴史学習への意欲や理解度の変化、オンライン上でのコミュニケーション能力の高まりなどを調査する。利用するゲームは「信長の野望 Online 〜飛龍の章〜」が最有力候補。ただ漫然とプレイするのではなく、制限時間内にミッションをクリアするなどといった課題を与える。
質問紙法や脳波測定などで短期的な効果を実証するほか、長期にわたって効果を見るパネル研究的手法も取り入れる。韓国でも同様の調査を実施。結果を比べる。
期間は約2年。10月ころにパイロットテストをスタートし、2006年4月以降に検証実験を行う。2007年10月ごろに結果を発表する計画だ。
「ゲームやネットの負の側面は強調されすぎているのではないか」――日本側の研究代表を務める東大大学院情報学環の馬場章助教授は考える。
特に日本では、せい惨な事件を起こした子どもがネット好きだった場合、事件の原因として真っ先にネットやゲームが挙げられがち。韓国側の代表者である韓国中央大学経営学科の魏晶玄助教授も「オンラインゲームと事件との因果関係があいまいなまま、事件が安易にゲームのせいにされている」と危ぐする。
実験は、こういった風潮に風穴を開けるのが目的の1つ。「ゲームは、使い方さえ間違えなければプラスの側面があると証明したい」と、アドバイザーを務めるはこだて未来大学情報アーキテクチャ学科の松原仁教授は話す。
コーエーの松原健二執行役員も「ゲームといえばネガティブな面が取り上げられやすいが、ゲームで刺激を受け、歴史や文化に興味を持った経験を持つ人も多いはず。そういった価値は、これまで実証的に認められてこなかった」とし、実験がゲームのイメージアップに貢献すると期待する。
「国内のパッケージゲーム市場は飽和状態。MMORPGは新たなビジネスチャンス」(馬場助教授)。実験は、教育用オンラインゲームという新市場創出も狙う。
昨年12月、魏助教授が韓国の高校生を対象にパイロットテストを実施。商品生産や取引、株式売買などができるオンラインゲーム「君主」をプレイしてもらったところ、経済学習への関心や理解が深まったという。ソウル大学の大学院でも同様の実験を行い、成果があがった。
魏教授は「オンラインゲームを学校教育に取り入れれば、教育が変わる」と力説する。「韓国の子どもにとって、オンラインゲームは生活の一部だが、親や教師はゲームへの理解が薄い」(魏助教授)。オンラインゲームを教育現場に取り入れれば、教師と子どもとのコミュニケーションも深まると期待する。
魏助教授によると、PCゲームやコンソールゲームで同様の研究はあったが、ほとんど欧米のものだった。「欧米はオンラインゲーム後進国。オンラインゲームの研究は、東アジアでないとできない」(魏助教授)。
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