マンション内共有録画サービスの提供会社に対し、大阪民放5社が「著作権ないし著作隣接権を侵害している」として訴訟を起した。海外在留邦人向けに日本のテレビ番組を視聴できるようにするサーバ放送サービスが訴えられたのに続くもので、こうした事例が最近、頻繁化しつつある。この種の問題はどうしても「私的録画」の解釈をめぐる議論に帰着しがちだが、それ以前の問題として、事前の協議が十分でない段階でサービスを開始してしまおうとする姿勢には首を傾げざるを得ない。
録画サービスマンションのシステムは、マンション内に設置されたサーバに一週間分の番組が録画され、入居者はその範囲内でいつでも好みの番組を取り出せるというものだ。受信機はマンションの購入価格に含まれ、視聴料金も無料とされている。
裁判に至っていることからも明らかなように、両者の言い分は大きく異なっており、どちらの主張が認められるのか、現時点では定かでない。是非の判断を下すのは裁判所の仕事なので、本稿でそこに踏み込むつもりはないが、今後もこうした事例は続くと考えられるので、いくつか気になる点について述べたいと思う。
今のところ、放送局側の対応状況はあまり報じられていないが、海外在留邦人向けに日本のテレビ番組を視聴できるようにするサービスと同様に、著作権侵害の疑いが強いと見て、かなり早い段階から同サービスに注目していたようである。
その上で、民放連著作権専門部会(現在のIPR専門部会)が弁護士を介して相手事業者と何回か文書を交換した。だが、はっきりとシステムの概要がつかめないまま時間が経過していたとのことである。相手事業者がしばらくの間、実際の営業展開を差し控えるかのような発言をしていた経緯もあって、放送局側としても新たなアクションを起こさずにいたようだ。
ところが、相手事業者が前述の発言にもかかわらず営業を続け、東京・大阪の新たなマンションでこのシステムを売りにした物件の分譲を開始したことが明らかになった。このため放送局側としても早急な対策を検討する必要が生じたわけだ。
大阪の民放5社がまず訴訟に及んだ理由は、東京の導入予定マンションが比較的小規模のものであったのに対して、大阪の分譲マンションが大規模なものだったことによる。東京のテレビ局側も同サービスが違法であるとの認識では共通しており、今後、大阪局と同様の措置を取っていく方向で変わりないと思われる。
先の海外在留邦人向けに日本のテレビ番組を視聴できるようにするサービスも、今回の録画サービスマンションも、「利用者にとって利便性が高い」サービスであるということに関しては、疑問の余地はないだろう。「こうしたサービスがあるが、使うか、使わないか」と問われれば、「使いたい」と答える人が多いはずだ。
いずれもクローズドな環境での利用が前提となっており、オープンな環境で使われるような仕組みにはなっていない。そのため、違法性についての争いが生ずることになれば、またもや「私的録画」の範囲をどう解釈するかという点に行きついてしまう。
録画技術の進歩は著しく、家庭内で自分もしくは家族のために、テレビ番組を蓄積しておくことは非常に容易になっている。おそらく、どれほど高性能な蓄積機器が登場してきても、このレベルの「私的利用」であれば、それが違法だということには決してならないだろう。
しかし、そのレベルを踏み越えた「私的利用」の範囲をどう解釈するかということについては、録画技術の進歩によっても大きく変わってくることは間違いない。デジタル化によって劣化しにくいコピーが可能になれば、アナログ時よりも厳しい目で見られるようになるのも無理のない話だろう。コピーする側の利便性が高まれば高まるほど、著作権者などコピーされる側のリスクも高まるからである。
これらの件について、訴えられた事業者は一様に、著作権侵害に当たらないことを主張している。だが、もし本当にそう考えていたのだとしたら、筆者は疑問を感じざるを得ない。もし、言い逃れで脱法行為を行おうと考えているわけではなく、あくまでも利便性の高いサービスを“合法的”に提供しているのだという自信があるのなら、どうしてサービスの開始前に放送局の許諾を得ておかないのかという点である。
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