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「マンション内共有録画サービス」提訴をめぐる、もう一つの見方西正(2/2 ページ)

» 2005年02月25日 13時04分 公開
[西正,ITmedia]
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 サービスを開始してしまってから、事後的に、放送局との間で著作権侵害に当たるかどうか争うというのでは、順序が逆のように思われる。サービスを利用しようと考えていたユーザーからすると、後になって「実は違法なのかもしれない」ということが争われることは愉快なことではないはずだ。「たかがテレビ、されどテレビ」ではないが、テレビはことほどさように一般市民の日々の生活に溶け込んでいる。彼らにとって自分が利用しているサービスが違法なのかどうかなど、疑問に思うことなどないに違いない。いや、関心すら抱かないだろう。

 そうしたユーザーの信頼を担ってサービスを提供するということを考えれば、やはり事前に許諾を得ておく必要があったのではなかろうか? 現状で広く認められている「私的利用」と、サービスとして第三者に提供するという利用の仕方が、何の疑いもなく“同じ範囲内”であると考えるか、あるいは事前に許諾を得ておくに越したことはないと考えるかは、一般常識に近い水準の話に思えてならない。

無料放送についての考え方

 地上波民放の放送は、無料放送である。広告主を経由して最終的には視聴者がお金を払っているという理屈は、テレビを見る時にわざわざ意識されることがないのが現実である。

 日々の暮らしの中で利用するサービスは大半が有料である。今では、ペットボトルに入った途端に、水でさえ有料になっている。それだけに、無料のものというのは、ついつい軽く考えられがちであるのかもしれない。

 無料のものであるならば、少々のことは勝手に行っても文句を言われる筋合いはないと考えられる気持ちも分からないではない。しかし、それは誤解である。何気なくテレビを見ている視聴者は余計なことを考える必要はないが、それを使って新たな利便性を提供しようと考えるのならば、あくまでも「無料」で提供される仕組みについては、きちんと理解しておくべきだろう。

 「私的録画」の範囲についての解釈が厳しくなる一方であることからすると、「もともと無料なのだからかまわないだろう」と簡単に考えていたという言い訳は通用しない。

 もちろん、だからといってあまり神経質に考えてばかりいても、新たな利便性は提供できなくなる。だからこそ、事前に十分な相談をしておくことが必要なのである。訴えられた側からすれば、「相談はした」と言うのかもしれないが、「したつもりになっているだけで、相手側からの了解は受けていない」というケースが多いのではなかろうか。

 もしも、悪意はないというのなら、なおのこと、事前に十分な協議をしておくべきだ。そうでないと、迷惑を被ることになるのは利用者なのである。「あなたが利用しているサービスは違法なのですよ」と、後になって言われるほど不愉快なことはない。新たな利便性を売り物にする事業者は、常にそうした利用者への配慮を忘れてはならないはずだ。

 放送局は、自らの責任でサーバ型放送を実現すべく、真剣に取り組んでいるところである。そのようなサービスだとすれば、事前に相談したとしても、取り付く島もないような対応を受けることはないだろう。逆に言えば、もし本当に事前に相談したのに全く相手にもされなかったというのなら、今度は放送局側の対応の姿勢の是非が問われることになる。

 その辺のやり取りで空回りすると、肝心の議論が一向に解決しないことになりかねない。あくまでも「著作権の保護」と「利用者の利便性」の兼合いという、本筋の議論がなおざりにされないことが肝要である。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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