英国の小売りチェーンMarks & Spencer(M&S)は現在、衣料品の在庫管理を目的するRFID(無線ICタグ)技術の試験運用を進めているが、同社はこの試験の実施店を、現在の9店舗から、2006年7〜9月期には53店舗に拡大する。
「今のところ、RFIDが棚卸しの作業効率を明らかに上げたという点で、スタッフの反応は非常に前向きだ。手作業では週に最長8時間はかかっていた作業が、RFIDタグを使うと約1時間で済む。また、スタッフは、使い方が衣料品の棚にスキャナーをかざすだけと簡単なことが分かったと言っている」と2月23日、M&S広報のオリビア・ロス氏は語った。
RFIDとは、無線周波数のクエリーに反応するタグのアンテナを使って、データを保存したり受け取ったり、転送する方法。タグを読み取るには、リモートスキャナーをタグの上にかざす。M&Sでは2003年にRFID技術の試験を開始し、2004年4月には商品レベルのRFID試験運用に移行している。現在の試験は男性用スーツでのみ行われているが、2006年には女性の下着にも広げるとロス氏は語る。
「当社はサイズ構成が複雑な商品でのRFID試験を行おうとしており、ブラジャーだけでも40種類以上のサイズがある」とロス氏。範囲を広げた試験は2006年10〜12月期まで行う予定で、その後も同社は追加試験を続ける計画。ロス氏によると、今後の試験でどんな商品を対象とするか、また、いつ試験段階を終えてM&Sの店舗でRFIDを正式導入するかといったスケジュールは決まっていない。
第2段階の試験の中心的な受託業者はBT Groupになる予定。同社はM&Sに、導入支援やRFID読み取り機のメンテナンスなどのITサービスを提供する。BTはM&Sの食品サプライチェーンでのRFIDの実装も支援している。M&Sはスキャナー技術についてはIntellidentと契約しており、マイクロチップはEM Microelectronic-Marinのものを使用している。
M&Sは、RFIDを使用する唯一の目的は在庫管理作業の効率化だと強調する。RFIDタグをレジで読み取ることも、タグに入力された衣料品の情報とクレジットカード情報などの顧客情報を関連付けることもしないとロス氏は言う。
「当社は個人情報を衣料品と結び付けてはいないし、今後もそのようなことは絶対に行わない。われわれはこの試験について隠し立てせず、顧客からは肯定的なフィードバックを得ている。RFIDの使用について店内で顧客に調査をしたが、彼らは商品在庫の改善がみられ、好感が持てると答えている」(ロス氏)
実施中の試験では、RFIDチップは使い捨ての紙製ラベルに付いている。衣料品の試験の第2段階では、チップは商品のサイズと価格の記録のためにM&Sが現在使っている紙製バーコードラベルに組み込まれ、ラベルには買い物客がRFIDチップに気付くように「在庫管理用インテリジェントラベル」と印刷される予定だ。M&Sによれば、インテリジェントラベルはバーコードラベルより20倍早く読み取ることができる。
また、同社はタグ使用中の店舗で、RFIDについてと、M&Sがタグで集めた情報を使って行っていること――そして行わないこと――を説明した小冊子を顧客に配っている。
英ケンブリッジのRFID専門企業IDTechExのピーター・ハロップ会長は、RFIDを導入する企業は、顧客に対し、例えば店の在庫状況が良くなるといった、この技術のメリットを示す試験運用を行って、反感を買いそうな問題に当初から対処しておくべきだと語る。
ハロップ氏は、衣料品小売企業のBenetton GroupとPrada(I Pellettieri d'Italia)が、女性用下着とドレスの1点1点にタグを付けることに対する否定的な反応を得て、RFID試験の中止を決定した例を挙げた。「ニューヨーク店で買い物をする女性たちが、ドレスのサイズを記録するというPradaの考えに拒絶反応を示したことは、Pradaにとって、まったくの驚きだったろう」と同氏。
英国の小売企業Tescoも、Gilletteのカミソリで実施されたRFID試験運用で、この商品を持ってレジにいる客の写真撮影指示を店内監視カメラに送るようにタグがプログラムされていることが明るみに出て、抗議に対処しなければならなかった。「抗議は受けたが、Tescoは試験を完了した。試験はRFID技術が有効なことを示した。Tescoは、RFIDの試験は続けるが当面は犯罪防止以外の目的に重点を置くこととした」とハロップ氏。
ハロップ氏は、プライバシー侵害を訴える抗議運動で掲げられている懸念の幾つかは作為的なもので、IDTechExが自社のデータベースに持つ1300件の欧州RFIDケーススタディから得た情報に基づいて、プライバシー問題がこの技術の使用を頓挫させるとは考えていない。「携帯電話の使用の方が持ち主の居場所を継続的に追跡できるので、よりプライバシー侵害の危険があるが、だからといってこの技術が使われなくなってはいない。RFIDタグの普及を阻む主な要因はコストだ」とハロップ氏は語る。
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