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スカパー!、未開拓巨大市場への「秘策」西正(2/2 ページ)

» 2005年03月18日 13時56分 公開
[西正,ITmedia]
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 チューナーのレンタル料は、月額300円程度になる見込みで、受信機の買い取り方式に比べて加入時の初期費用を低減できる。だが、シニア層を取り込む上で、レンタル事業が効果的と見る理由は、初期費用が低減するからではない。レンタル事業者となる電気店がチューナーの接続とパラボラアンテナの設置までを行ってくれるからである。

 チューナーの接続もさることながら、パラボラアンテナの設置はシニア層にとっては非常に憂鬱な作業である。あまりメカに強くない人からすると、それだけで十分に敷居が高く感じられるに違いないからだ。

 電気店としては、チューナーを販売する際に得られるインセンティブに代わるものとして、最初の加入料を自らの収入とすることが出来る。レンタル件数を伸ばすには、チャンネルのピーアールにも力を入れなければならない。話題の韓国ドラマの紹介も良いが、ターゲットをシニア層に置くのなら、地上波系のドラマの再放送チャンネルや、時代劇専門チャンネルなどが好材料となることは間違いない。結果として、シニア層が加入してくれれば、子供や孫が喜びそうなチャンネルの契約も伸びてくるに違いない。

時代劇専門チャンネルの試み

 シニア層向けに最もアピールするのは時代劇専門チャンネルであろう。同チャンネルの契約者の年齢層は現時点でも、50代がトップで、その次が60代、それに70代、40代が続いているという。

 今後の戦略としては、もう少し若い層にも時代劇の魅力を知ってもらおうという考え方もありそうに思われるかもしれないが、同チャンネルはあくまでもシニア向けのチャンネルとしての存在意義を高めていくことにあるという。スカパー!加入者の未開拓市場がシニア層であることからすれば、ターゲットを引き続きシニア層に置くという考え方は正しいと言えるだろう。

 同チャンネルは、その戦略に沿って色々な工夫をしている。まずは独自の番組ガイドブックの作成だ。一冊150円の年間購読制だが、その程度の出費はシニア層には負担にならない。

 このガイドブックの特長は、とにかく文字が大きいことだ。スカパー!の公式ガイドブックは分厚い上に、非常に細かな文字でビッシリと埋まっている。老眼が進み始めたら、あの中から見たいチャンネルや見たい番組を探し出すことは、不可能に近いとも言える。その点を見事に解消する試みは確実に功を奏するだろう。時代劇スターの写真もふんだんに盛り込まれており、カラフルで非常に見やすいガイドブックとなっている。

 ガイドブックの申し込みは、電話か葉書によるというアナログ的な形になっているが、早速の5000冊の申し込みのうち、1割に当たる500冊分くらいが葉書で申し込まれてきたという。番組を見ながら、宛先を写し取って、葉書で申し込む人が1割もいるというところに、シニア層に受け入れられているチャンネルであることが見てとれる。逆に、ホームページから申し込めないことへのクレームはわずか1件だけだったということにも、その特徴が現れている。

 同チャンネルが視聴者へ配慮していることは他にも多く見られる。地上波で流された時は合間にCMが挿入されていたが、それは極力カットされている。今の地上波のドラマでもそうだが、番組内容と、CMの派手派手しさがミスマッチになっており、肝心のドラマの魅力を損なっているケースが多い。

 CSチャンネルとしても広告料収入は多いのに越したことはないはずだが、それよりも番組の持つ雰囲気を壊さないよう、CMの代わりの時間調整としては、ちょっとしたミニ番組がオリジナルで挿入されている。舞台や最新時代劇の紹介であったり、なかなか見聞きする機会のない時代劇スターのインタビューなどが織り込まれたりしている。また時代劇の舞台となった町並みの紹介などを落ち着いた雰囲気で伝えるといった工夫も凝らされている。もともとシニア層には強いチャンネルだが、それでも新たにシニアな視聴者を獲得するために、これだけ多くの工夫を行っているのである。

 スカパー!にとって未開拓の巨大市場であるシニア層を取り込んでいくためには、時代劇専門チャンネルが行っているような工夫や配慮を、プラットフォームも他の委託放送事業者も、より強力に押し進めていく必要がある。それが功を奏するようになれば、加入者を今の倍以上の水準まで引き上げていくことは十分に達成可能だろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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