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ホームロボットの“頭”は軽くなる?

» 2005年04月11日 23時26分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 家庭用ロボットは、働く環境から知識を得るようになるべきだ。相対的にロボットが持つ知識は軽くなる――JEITA(電子情報技術産業協会)主催の「デジタル家電セミナー 2005」で、首都大学東京システムデザイン学部の谷江和雄教授が講演を行い、ホームロボットの柔軟な開発と運用を可能にする“知識分散型ロボット制御”を紹介した。

 谷江氏はまず、家庭用のロボットを取り巻く状況について、「多くは試作品に止まり、製品化に至っていない」と指摘した。「メーカーは、何を製品化すれば売れるのか分かっていない。ある人は、(市場開拓に至らない理由を)ロボットに“知能”がないからだというが、問題はそこではないと思う。(ロボットに)どこまでの知能を持たせれば良いか、メーカーが分かっていないからだ」。

 たとえば、自動車のような製品は既に大きな市場を持ち、新しい技術を投入するときも既存の技術を置き換えればすむ。しかし、ホームロボットの場合は、現在ヘルパーなどの人間が行っている作業を技術で置き換えることになる。家庭内に存在する多様なニーズに応えるためには、少量生産の要求にも妥当なコストで対応できるだけの産業インフラを整備しておく必要があるという。同氏のいうインフラとは、ハードウェアとミドルウェアの標準化を指す。

 「現在のように1つの企業が必要なコンポーネントをすべて開発し、システムまで組んでいる現状では効率が悪い。ロボットの各部をモジュール化し、メーカーを横断する形でコンポーネントを共通化するべき」。たとえば、A社の脚とB社の手、C社のセンサーモジュールといった具合に各メーカーのコンポーネントを組み合わせると、各モジュールはロボットの体内ネットワークに繋がり、協調して動くようになる。

 「課題は、各社各様のソフトウェアをいかにつなげるか。違いを吸収する“RTミドルウェア”(RT=ロボット)と、各モジュールに組み込むコンピュータの仕様が今後の開発課題だ」。

知識分散型のロボット制御を可能にする「RTハウス」

 ハードウェアの次に求められるのは、やはり頭の中身。家庭用ロボットに、どの程度のデータ(知識)をあらかじめ搭載しておくのか。インテリジェンス・ダイナミクスなどのアプローチも進んでいるが、谷江氏はより直接的に知識を得る手段となる分散オブジェクト指向の考え方を紹介した。

 「コンピュータサイエンスの世界では、個々のシステムに存在する知識は減少傾向にある。必要な知識はネットワーク上に分散していて、必要に応じてとってくればいい」。

 たとえば、家の中を人間と同様に動き回るヒューマノイドなら、宅内の見取り図が知識として求められる。それをRFタグの形で宅内の各所に地図を埋め込んでおき、ロボットにはタグリーダーを搭載する。ロボットは、RFタグ情報を読み、どこに階段があり、どこに寝室があるかなど、家の間取りを瞬時に理解できる。新しいロボットを導入してもカスタマイズする必要はなくなり、また転居してもデータを入れ替えたりする作業が発生しない。同様に、家財道具やネット家電にも、その機能を示すRFIDタグを組み込んでおけば、ロボットは宅内機器と連携して活動の範囲を広げるだろう。

 「個々の住宅や家庭内にあるシステムに合わせてホームロボットを一から開発したり、カスタマイズするのは現実的ではない。むしろ“知識を埋め込まれた環境”の中で、ロボットは働くことになるだろう」。

 デモンストレーションでは、食器棚に皿を分類しながら運ぶマニピュレーターの映像が公開された。皿には、その形状を示すRFタグが埋め込まれており、ロボットは皿から得た知識により、皿を運ぶ場所を特定する。さらに、ビジョン(カメラ)を併用して、どこの棚にどんな皿が入っているかを判別しているという。

 谷江氏は、RFIDタグのような通信機能付きコンピュータを「知識モジュール」、ロボットの働く環境を整えた家を「RTハウス」と呼ぶ。「行動のアルゴリズムはあっても、ロボットに入れられる知識は有限だ。知識分散型ロボット制御の変え方を使えば、宅内のネットワークに接続するだけでロボットは大きな知識を得ることができる」。

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