ここ数年、急速に市場を拡大しているデジタルオーディオプレーヤー。小型HDDやメモリに大量の音楽を入れて持ち歩けるのは魅力だが、一方でその音質については懐疑的な意見も多い。たとえば日本レコード協会は、「10分の1に圧縮された音を“CD並みの音質”と言わないでほしい」という要望をマスコミ各社に出したことがある。メーカーや業界団体が、どのようにして圧縮音楽の音質を検証し、販売しているか疑問に思う人も多いだろう。
あまり知られてはいないが、電子情報技術産業協会(JEITA)には、メモリオーディオ機器の音質表示に係る業界標準規格「CPX-2601」がある。2004年1月に策定されたもので、主に圧縮コーデックやビットレートに関する評価法を規定している。しかし、CPX-2601を使って実際に音質評価を明記した製品はいまだに存在しない。
今週行われた「JEITA デジタル家電セミナー 2005」では、オーディオネットワーク事業委員会の副委員長を務めるソニーの横田哲平氏が講演を行い、CPX-2601の内容を説明するとともに、実施に向けて意欲を示した。
一概に圧縮音楽といっても、MP3、WMA、AAC、ATRAC3などさまざまな符号化方式があり、ビットレートにも音質は大きく左右される。さらに、圧縮の際には“人の耳に聞こえない音をカットする”など、アナログの時代とはまったく違う音質劣化の仕方をするため、従来の基準をそのまま当てはめるわけにはいかない。横田氏によると。「高能率の符号化技術で圧縮した音は、従来の測定法で評価できない」という。
たとえば、“Hi-Fi”というロゴが付いた機器は、20-20kHzの周波数特性、96dB以上のS/N比、歪特性が0.01%以下といった条件を満たしている必要がある。ところが、現在のメモリオーディオ機器は、「ビットレートが128Kbpsであっても、64Kbpsであっても、ほとんどHi-Fiの基準をクリアできる」。ビットレートに倍の差があって同じわけがなく、「聞けば違いはわかる」(横田氏)のだが、スペック上の数字は同じ。つまり、音質をリニアに示しているわけではない。
このためJEITAでは、単なる数字ではなく、人間の主観を考慮したオーディオ品質の客観評価法を検討した。まず、音質評価の基準を「原音(CD)からの劣化度」と定義。実際の測定方法には、ITUが1998年に標準化した「ITU-R BS.1387」に使用されているPEAQ(Perceived Evaluation of Audio Quality:聴感対応客観評価法)を採用した。
PEAQ評価法は、人間が耳で聞いたときの評価傾向をモデル化しておき、原音と処理後(今回の場合は圧縮)の音をソフトウェア的に突き合わせるというもの。原音とデコード後の特性をコンピュータ上で比較するとともに、人の耳が捉える感性の部分も取り込んだ評価法だ。一度評価モデルを構築しておけば、あとはソフトウェア処理だけで検証を行えるメリットもある。
評価対象はデジタル領域のみとし、D/Aコンバータを介したアナログ出力は除外した。具体的には、オーディオプレーヤーのデコーダLSIから出力されるデジタル信号を取り出し、WAVファイルに変換して評価プログラムにかける。一方のソース信号(CD音源)もWAVに変換し、両者の違いを機械的に判断するという。
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