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ワンセグ放送――携帯キャリアのメリットは小さくない(2/2 ページ)

» 2005年05月02日 08時20分 公開
[西正,ITmedia]
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 民放各社の中ではフジテレビの携帯サイトが非常に分かりやすく、「フジテレビで〜す」、「スーパー競馬mobile」、「フジバラエTV」、「フジTVエンタメ情報」、「スポルト!ニュース」、「アーテイストNUDE」、「FNNフジニュースネット」、「フジ♪メロ」、「あいのり(完全版)」、「フジ@ゲーム」、「クイズ$ミリオネア」、「フジTVおみやげランド」、「ゲーム!ヘキサゴン」の13種類がある。大半はテレビ番組と連動した情報提供サイトであり、ショッピングサイトは少ない。

 これらの携帯サイトにまでアクセスする人たちは、かなりコアなファン層であることは間違いない。もともと地上波民放は「ダブルスクリーン」を嫌う傾向にあり、テレビを見ながら携帯電話やパソコンを操作してもらいたくないと考えていた。とはいえ、ブロードバンドの普及を勘案、PCでネットを楽しむ人たちをテレビ放送に誘導しようとホームページを充実させてきたという経緯がある。

 だが、携帯電話を通じて提供するコンテンツは、テレビ放送への誘導効果を期待しにくいことから、明らかにコアなファンに向けた情報提供以上のことは考えてこなかったのである。

 しかし、携帯電話端末でテレビ放送が見られるということになると、明らかに状況は一変する。一人暮らしの若者が、携帯電話さえあれば固定電話を必要としなくなったのとは異なり、携帯電話でテレビが見られるようになったからと言って、“固定テレビ”が不要になるとは考えにくい。

 すなわち、携帯電話でテレビ放送を見るのは、明らかに固定テレビの前にいられない時なのだ。携帯電話の画面が少しずつ大きくなっているとは言え、固定テレビと比べれば見栄えで劣る。そこで流れる放送に魅力がない分、関連するサイトへのアクセス率は飛躍的に高まる可能性があるだろう。

 小さな画面で見ていても、バックに流れる曲が気に入れば、そのCDを買いたいと思うかもしれないし、ヒロインの着ている服はどこの製品か知りたいと思うかもしれない。それを注文できるのであれば、つい買ってしまうかもしれない。

 そうなれば、当然テレビ局としても携帯サイトの作り込み方が変わってくるだろう。有料課金の回収については携帯キャリア側が引き受けてくれる。その分の手数料支払いを勘案しても余りあるほどの有料ビジネスの展開が可能であれば、何かを売ろうという思いが強く出てくるのは当たり前のことだ。

 キー局以上にその効果に期待するであろうのがローカル局である。ワンセグ放送は地上波である以上、地方で受信すれば、その地方の放送が見られることになる。当然のことながら、それと連動する形で、アクセスできるサイトをローカル局のものとすることが可能だ。これまで、キー局のサイトに比べ、どうしてもローカル局の携帯サイトは見劣りする感があった。だが、アクセスが容易になる仕組みが作られれば、サイトの作り込みにも力が入っていくに違いない。デジタル化による投資負担がキー局に比べ相対的に大きいと言われてきたローカル局にとって、有料ビジネスの機会が拡大することへの期待は、キー局の比ではないのである。

 広告放送を50年間も続けてきた地上波民放にとって、有料ビジネスへのハードルは、周辺業界の人が思う以上に高いものと感じられている。携帯電話との接点を生かそうとすれば、課金の仕組みを自ら構築しなくて済むことが最大のポイントとなる。何のことはない。携帯電話でテレビが見られるワンセグ放送こそが、典型的な「放送と通信の融合」の最初の事例になるのである。

 テレビチューナーを搭載することについての携帯キャリアのためらいは、あくまでも今のテレビ局の携帯サイトを見てのことであろうと思う。だが、新たな視聴スタイルが標準化していけばいくほど、テレビ局の携帯サイトの魅力は増していくと考えるべきだろう。

 すなわち、当初はわずかな機種しか出さないなどと言わず、どの携帯電話端末にもテレビが映るようにした方が、成功の図式は描きやすくなるはずだ。テレビ局の集客力は一目瞭然であり、テレビをポータルとすることによる各携帯サイトへのアクセス数拡大に疑問を持つよりも、残された一年弱の期間に知恵を出し合って、どこまで本当のWIN-WINの関係を構築できるのかについて、少しでも前向きな戦略を練りあうことが重要だ。

 「放送と通信の融合」に期待することは正しい選択である。真の意味でその最初の接点となるのが、テレビの原点でもある「無線」の世界にあるのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。 銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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