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次世代DVD、遠ざかりつつある“規格統一への道”(2/3 ページ)

» 2005年05月16日 18時42分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 3社の議論はROM製造コスト以外にも多岐にわたり、たとえば「今後も光ディスク需要が本当に継続的にあるのか?」「時代はネットワークとHDDになるのではないか?」「ならばパッケージビデオソフト重視のHD DVDでもいいじゃないか?」 といった議論にまで及んだようだが、最終的に話の焦点は「本当にBD-ROM製造の歩留まりを上げることができるのか?」という点に絞られていたといっていいだろう。

 ソニーと松下は両者とも「現時点で出来ていないのは確か。しかし、技術的な見通しが立っていないわけではない。あと数カ月で2層ROMの十分な歩留まりを実現できる材料や技術的な根拠は示すことはできた」と話す。

 その一方で東芝側は「これまでいろいろな会社が数年にわたって取り組み、うまく行かなかった事が、あと数カ月で解決するとは考えにくい。今できていないものが、数カ月後にできる根拠に乏しい」との判断を下した。

経営視点での決着も付かず

 片や技術的に展望が見えているとし、もう一方は解決のメドが立っているようには見えないという。統一交渉では両者が様々なデータを持ち寄りつつ、話し合いを続けてきたが、根本的な見通しの部分で食い違ったままでは着地点は見出せない。

 松下の関係者は「このままダラダラと互いの主張を繰り返していても時間が無駄に過ぎるだけ。規格統一が行えなかったとしても、消費者に(将来的な互換製品の提供やメディア供給などで)迷惑をかけないための準備は十分出来ている」と話す。

 技術論を切り離した各事業部トップによる15日の会談でも、論点は東芝が0.6ミリ構造を諦めるか否かに集中したが、ここでも統一の方向には動かなかった。

 東芝が挙げた0.1ミリへの統合を決断できない理由は大きく2つある。ひとつは、3社のみの密室ですでにある2つの規格を統合して新しい規格とする事への“独禁法の絡み”だ。これは違った切り口で見ると、企業間競争を回避するための談合とも見られかねない。これはリスクが大きいと判断したのだ。

 当初、上記のような独禁法に絡んだリスクについての情報を耳にしたのだが、訴訟リスクでもっとも大きな問題になっていたのは、パートナーとの契約問題だったようだ。ここに不正確だった部分に関してお詫びし、追記をしたい。

 東芝はHD DVD発売に向けたプロセスの中で、協力企業と間にいくつかの契約を持っているという。契約の内容の詳細は明らかではないが、その中にはHD DVDプレーヤ発売に向けての東芝の取り組み義務に関する項目があり、統一規格へと動いた場合にパートナーから訴訟される危険性がある。このため、パートナー(おそらく主にハリウッド映画スタジオと考えられる)が納得する合理的な説明なしに0.1ミリ構造で合意する事が難しかったのだ。

 しかし決定的な理由はもうひとつの方だろう。先週、日経新聞1面で報道された交渉内容のリークがきっかけで、東芝が規格戦争に負け、それまでの技術論を撤回して0.1ミリ構造を採用するといった認識がされてしまったことに対し、0.6ミリ構造で開発を続けてきた東芝社内の人間から強い不満の噴出していた。

 加えてHD DVDを推進してきたパートナー企業からも、東芝に対して強い圧力があったようだ。特にHD DVDに賛同している映画スタジオからは「なぜ今になってROM複製コストで不利な0.1ミリを検討しているのか」との強いクレームが入ったという。

 結局、東芝はこうした0.1ミリ統合に対する反対論を抑え込める材料がないと判断し、経営視点での統一規格策定を決断できなかった。ソニー関係者も「全く(統一の可能性が)なくなったわけではないが、事業レベルのトップでは決められる問題ではなくなったのではないか」と話す。松下側もほぼ同意見だ。

今後の展開――統一のチャンスは“残り1回”

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