観測筋はインターネットがすべてを変えると言い続けている。まあ、恐らくすべてとはいかず、原材料から鉄鋼を作るための温度まで変えてしまうわけではない。だが、インターネットが多くのものを変えるのは事実だ。変化はたくさん起きているが、そうした変化が、例えば今から10年後にどんな結果をもたらすかを、正確に言い当てることはまだできない。
とはいえ、起こり得るシナリオについて考えようとする人たちを止めることはできない。
ニュース印刷媒体を例に取って考えてみよう。業界紙を含む新聞や雑誌などの印刷媒体は、いずれインターネットに抹殺されてしまうという脅威を感じつつも、インターネットと共生する道を考えだそうと必死だ。
Journalism.orgは先日、ニュースメディアに関する2回目の年次調査報告を発表した。あまり明るい内容ではないが、ここに挙げられている事象すべてがインターネットを原因とするものでもない(インターネットが主因ではあるけれど)。Journalism.orgは、ジャーナリズムに起きている大きな流れを幾つか特定した。「よりスピーディで無規律で安価」な運用形態へと向かっていること。支持政党に基づくメディア支持が予想より台頭しなかったこと。本流メディアによるWebニュース配信への投資が増えていないこと、などだ。報告書は、ジャーナリズムはニュースを取り巻くバリアーのような存在から、ニュースに対して透過的な、熟練鑑定家かレフェリーのような役割へと変わっていかなければならないと結論付けている。
米国の1400紙以上ある新聞の大半は、Webのパワーの検証をあまりやっていない。New York TimesやWall Street Journalなど、少数のメディアが、Webから収益を上げられ、かつ印刷媒体の売り上げを損ねることのない道を見つけだそうと試みている。
この2紙は、大きく異なる道を歩んでいる。New York TimesのWebコンテンツは、登録は必要だが、ほぼすべて無料で読むことができる(同紙は近く一部コンテンツで課金を始めるが、ニュースは無料のままだ)。かたやWall Street Journalは、Webコンテンツに全面課金している。どちらのWeb事業も順調ではあるが、年間売上高に占めるWeb事業の割合は、New York Timesが約2%、Wall Street Journalは約3%と、いずれも大したことはない。ニュースメディアによる、インターネットを変革推進者として受け入れるためのこれまでの取り組みは、よく言っても「慎重」だ。Wall Street Journalのクローズドなアクセス課金方式(Googleなどの検索エンジンを遮断しており、読みたい記事があるかどうか購読者以外の人間に知るすべはない)にしろ、New York Timesのおおむねオープンな方式にしろ、そのいずれからも、将来のビジョンは見えてこない。将来こうなるかもしれないというビジョンの1つは、2004年に作られた空想ドキュメンタリーの中にある。これは、2015年までにGoogleとAmazonが合併して“Googlezon”となり、個々のユーザーに向けて個別にカスタマイズしたニュースを配信するようになって、New York Timesを追い散らすというお話だ。
「みんなが欲しがっていると当紙が考えるニュースです」と差し出されたニュースが、みんなが本当に欲しがっているニュースとは限らないのだ。
(筆者注:ハーバード大学は、学生が欲しがっていると大学側が考える情報だけ提供して成り立っているわけではない。しかし上記の考察は、わたしの私見である。)
※本稿筆者スコット・ブラッドナーはハーバード大学の情報システムコンサルタント。
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