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CATV向け光配信網は、スカパー!に影響を及ぼすか?西正(2/2 ページ)

» 2005年08月05日 05時43分 公開
[西正,ITmedia]
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 全国のCATV事業者の広域連携を目指す構想は決して間違えていないし、あるべき姿であるとは思われる。だが、事業者が全国各地に点在してしまっているという現実から目を背けるわけにはいかない以上、あまりに極端な議論をするのもいかがなものかとは思う。

 H.264であれば1トラポンで、HD画質のチャンネルを4本は放送できると言われている。CATV事業者もその立地するところ次第で、衛星経由でHD放送を受けた方が効率的であるというケースもあるだろう。

 ここでも、先ほどの議論と同じことなのだが、衛星からの配信から全面的に撤退するという番組供給事業者があるのならばともかくとして、引き続き、直接受信とCATV経由の二本立てで配信されていくはずである。

 そうならば、トラポン代についての考え方も、そもそもは帯域を確保するための料金だという原点に帰れば、仮に衛星経由で受ける者が1人しかいなくても、500万人もいようとも、特に変わりはないということになる。

 すなわち、今回の全国的な光配信網の構築という計画をもって、それがスカパー!や衛星の経営に悪影響を与えるという考え方は早計に過ぎるという結論になる。地上系、衛星系のそれぞれの利点に着目して、それが生かされる形で使用されると考えるべきだろう。

ペイテレビ市場の拡大が急務

 日本のペイテレビの視聴シェアは2割に満たない。これは米国で5割を超えている現状と比較しても、まだまだ拡大させていく余地が大きいことを意味している。

 直接受信によるか、CATV経由によるか、はたまたIP放送経由によるかといった伝送路による競争以前の問題として、まずはペイテレビの視聴シェアを高めていくことこそが急務であると考えられる。

 そのための1つの要素として、HD化という条件が欠かせないというのならば、それはそれで対応していくべきであるが、その伝送路についても光ファイバーでなければいけないとか、衛星経由では難しいと決め付けてしまう必要もないのではなかろうか。

 CATV事業者の中には、オールケーブルネットワークの実現に向けて一致団結は難しいと考えているところもあるようだし、一方で大手通信系を中心とするIP放送系に対して過大な危機感を抱いているところもあると聞く。

 ただ今のところは、ペイテレビ市場は全体を拡大させることが優先されるべきであることからすると、何か新たな伝送手段が登場してくる都度、従来の伝送手段が否定されるような考え方はいたずらに混乱を招くだけであろうと危惧される。

 競争と協調は巧みに使い分けられることによって、相互に有機的に機能していくものである。優先順位を間違えて、既得権益を守ることばかりに固執していると、市場の健全な発展が妨げられることにしかなりかねない。

 衛星によらない番組調達手段があっても構わないと思う。一方で、衛星を使うことにメリットを見出せる事業者もいるに違いない。どちらが効率的なのかについて、いずれ明らかな差がついてきた時点では、改めて存亡云々の話も起こってくるのかもしれない。しかし、そうなる前の段階で、色々と新たな条件変更が行われるのが商いの常である。

 今はまだ甲乙つけがたいという段階であり、何よりもペイテレビの視聴シェアを引き上げるような工夫を、業界関係者をあげて考えていくべきだと思う。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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