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CATV向け光配信網は、スカパー!に影響を及ぼすか?西正(1/2 ページ)

» 2005年08月05日 05時43分 公開
[西正,ITmedia]

JDSの動き

 首都圏でCATV事業者向けの番組配信事業を手がける日本デジタル配信(JDS)が、ジュピターテレコム(J:COM)、テプコケーブルテレビ(T-CAT)を株主に迎え、光ファイバー網による番組配信網を全国展開させることになった。

 これでJDSの主要株主は、東急電鉄グループと、J:COM、東電グループの三者となるわけだが、全国レベルでのCATV網のネットワーク化を推進する見地から、他のCATV事業者からの出資を受け入れることも念頭に置いているという。

 こうした光配信網による番組配信を行うことの狙いは、CS放送のスカパー!経由などの衛星によらない番組調達を全国レベルで可能にすることにあるという。そのため、スカパー!などの衛星系事業者にとって深刻な事態だと受け止める向きがあるが、それは杞憂(きゆう)に過ぎない。

 そもそも光ファイバーをバックボーンに使って全国展開することがコスト的に効率が良いとばかりは限らない。現状のJDSは、光ファイバー網を使い、番組配信サービスを首都圏のCATV事業者26社に提供している。今後は東京・名古屋・大阪の三大都市圏と福岡県のCATV事業者を対象にCS放送をデジタル配信する計画だ。

 当初の動きを見ている限りでは、回線効率の高い地域が優先されている。そうした地域ならば採算を確保することも容易かもしれない。だが、本当に全国展開ということになると、現時点では光ファイバーを使うことが効率的であるとはまだまだ考えにくい。

 また、スカパー!の場合には、各番組供給事業者からのコンテンツを目黒や青海などに集め、そこでエンコーディングしてデジタル化している。そこで得られる収入に大きな影響は起こらない。そこから先の部分で、衛星にアップリンクするものもあれば、光ファイバーで配信するケースもあれば、IP方式で配信するケースもあるというに過ぎない。

 今回の光配信網を形成するグループは、エンコーディングなどの作業を「アイ・ヒッツ」(i-HITS)の協力を得るとしている。そうであれば、従来と何も変わらない。

 スカパー!による直接受信(DTH)の利用者数は350万件近くに及ぶ。直接受信から一切撤退するというのならば話は別だが、そうでなければ衛星へのアップリンクがなくなるわけではないし、スカパー!によるエンコーディング業務がなくなるわけでもない。

 衛星に向けたアップリンクについては、スカパー!が送信代行を行っているが、それがトランスポンダー(トラポン)で反射されて降ってくる際には、各世帯で直接受信をしようと、CATV事業者が受けようと、スカパー!にとっては何ら変わりはないことだ。CATV事業者からの収入は、鍵開け代として1チャンネル当たり月に100円だけである。現在のスカパー!の事業規模を考えれば、その部分がなくなったとしても、微々たる影響しかないだろう。

 まして、スカパーはオプティキャストによる光配信も行っているし、ブロードバンドにもモバイルにも進出しているマルチプラットフォームである。単純にJDSとの関係だけで語られるべき事業者ではない。ただ、この部分を差し引いて考えても、事業構造からすれば、大きな影響があるとは思えないのである。

HDへのニーズという理由付け

 JDSにJ:COM、東電グループが加わって全国的な光配信網を構築しようという理由の1つに、HD画質のチャンネルを配信したいというものがある。

 日本人は画質に対するこだわりが強いので、地上波デジタル放送、BSデジタル放送がHD画質のチャンネル中心になっていく以上、CSデジタル放送だけが多チャンネルであるというだけでSDの画質のままで行くのは難しかろうという考え方がある。

 もともと110度CS放送はHD化されることが前提条件のようになっているのだが、現状はほとんどのチャンネルがSDで放送している。しかし、今は今であり、3年後、5年後を考えると、HDで放送するチャンネルが増えていくことは間違いないだろう。

 HD画質の放送を流そうとすると、衛星のトラポン代が高いという声をよく耳にする。衛星によることなく地上での光配信網を構築しようという動きにも、そうしたトラポン代の水準についての考え方が背景にある。

 しかし、それもMPEGをベースに考えるからの話なのであって、H.264を使えば、それほどトラポン代も高くはならなくなる可能性もある。

 そう考えると、今回の光配信網の構築によって、将来的にスカパー!が苦しくなるとか、衛星が苦しくなるという見方は、やや極端に走り過ぎたものにだといえる。もともと衛星による配信が使われるようになった理由に、有線でつないでいくよりも効率的に配信できるということがあることを忘れてはならない。

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