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ソニーの新経営戦略に思うこと(2/4 ページ)

» 2005年09月29日 03時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

誰もが望みの製品を入手できる時代に

 どのようにルールが変化しているのか。様々な切り口があるが、ここでは“品質や機能に対する渇望感”をひとつのテーマに話を進めたい。

 あるメーカーの事業責任者に話をうかがった時、作り手側が画期的と思っている新製品でも、なかなか利益につなげにくくなっている現状に関して「日本人は誰もがお金持ちになりすぎたのかもしれない。加えて量産技術と半導体技術の元に、そこそこの品質なら高機能な製品を低価格に作りやすくなってきた事も理由のひとつだろう」と話した。

 メカトロニクスや信号処理の時代から、半導体プロセスへとモノの付加価値を生み出す中心技術が移り、新機能の追加は搭載するチップやセンサーの性能でおおむね決まる傾向が強まった。加えて“アルバイトしながら欲しい製品のために貯金してなんとか入手する”必要がなくなり、1つの製品に対するコダワリが薄れ、さらに性能的な渇望感も薄れてきたことから「急がなくていいや」、「どれでも同じだよ」といったユーザーが増えたというのだ。

 同じような事は、ハリウッドで映画や音楽に携わる人たちからも聞こえてくる。「僕らが中学の時代は、1枚3800円のLPを買うためにコヅカイを貯めたり、アルバイトしたりして、欲しいモノをや買い食いを我慢してLPを買った。1枚のコンテンツに対する思いは、今とは比べものにならない」

 苦労して入手した1枚のLPだけに、少しでも高音質で楽しみたい。絶対的なコンテンツ量が今よりもずっと少ない時代。たった1枚のLPが貴重であり、貴重であるからこそ、音楽やその再生機に対するコダワリは今よりもずっと強かった。コンテンツが大量消費される時代(もしくはコンテンツを安くばらまいている時代とも言えるが)、1つ1つのコンテンツに対するユーザーのコダワリ度は、間違いなく減っている。

 望みの製品、好きなコンテンツが、買いたいと本気で思えば入手できる。ある意味、昔は憧れた“良い時代”を迎えた結果、ユーザーは新製品や新しいコンテンツに対して特別な感情を抱かなくなってきたと言えるのかも知れない。

悩める企業──ソニー

 話をソニーに戻そう。

 ソニーの新経営戦略を“新味なし”と感じたのは「エレクトロニクス、ゲーム、エンタテインメントの三つをコア事業と位置づけ、競争力向上と経営体質強化に向けて個々の製品競争力を強化」という方向性が、今までとほとんど変化しておらず、個々の具体的な施策が見えてこなかったからだ。

 自由な発想と高音質、高画質、娯楽性を追い求める製品開発者の気質は、今のソニーにも残っている面はある。しかし、時とともにそれらが認められにくい(品質や機能よりも価格へと目がいきがちな)市場へと変化し、ソニー自身が持っているはずの“プラス面”が消費者から評価されづらくなってきている。

 加えていくつかの分野では先を見誤り、あるいは極端な保守的思想にとらわれすぎて、良い意味での“やんちゃさ”も影を潜めてきた。それを象徴するのは、あれほどビジネスブランドとして定着していながら、市場からはすっかり過去のものとされてしまっているウォークマンだ。今年に入ってからの新製品投入で、ハードウェアとソフトウェアの両面での追い上げを試みているが、すでにiPodが定着している中での追い上げは簡単ではない。

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