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コラム
» 2005年10月03日 13時00分 公開

小寺信良:音と歪みの、いい関係 (3/4)

[小寺信良,ITmedia]

「音が歪む」とは何か

 1960年代までは、真空管の時代である。当時のギターアンプの歪みとは、すなわちパワー段の真空管の歪みでもあった。

 真空管の動作は、入力に対してリニアに動く領域があり、その先には飽和する領域がある。リニアで動く範囲での動作は今のHiFiの理念に通じるわけだが、この飽和する領域の動作こそが「ナチュラルディストーション」として、未だにギタリストの間で信仰とされている部分である。

 BOSS、そして親会社のローランドもそうだというが、極力ソリッドステート、すなわちオールトランジスタで作るという基本理念がある。悪条件下でも安定した性能が出せるようにと、ギターアンプにしろエフェクターにしろ、ごく一部のシリーズを除いて真空管を採用していない。では真空管を使わない歪みは、いったいどうやって作っていくのだろうか。

 「方法はいろいろあります。トランジスタアンプを使ってゲインを上げる場合もありますし、ダイオードのような素子で波形をクリップさせる場合もあります。どのような方法を使うかによって、歪みのキャラクターが変わっていくわけです。またダイオード1つとってみても、初期のころのゲルマニウムダイオード、のちのシリコンダイオードなどいろいろな素子がありますし、それと回路との組み合わせでキャラクターを作っていくわけです」(高橋氏)

 「ギターアンプの場合は、スピーカーの歪み特性も非常に重要ですね。いわゆるオーディオで使うHiFiのスピーカーとは、全然考え方が違うわけです。このあたりをスピーカーのメーカーさんとすり合わせするわけですが、えっ、そんなに歪んでいいの? とか、そもそもそういうタイプのスピーカーの作り方がわからない、と言われることもあります」(高田氏)

なぜ「歪み」はかっこいいのか

 今度は音の歪みが生み出すダイナミズムや、エモーショナルな部分を考えてみよう。メタル系でもハードロック系でも、あるいは泣きのギター系でも、歪みのあるギターサウンドを聴いて、「あっ、音が歪んでる。ヤだなぁ」とは思わない。まあそういう音楽が嫌いな人もいるかもしれないが、それでも音が汚いとは思わないはずだ。歪みまで全部コミで、1つの表現として受け止められている。

 音の歪みは、我々聴き手に何をもたらすのだろうか。BOSSの代表取締役社長 池上嘉宏氏にうかがってみた。

 「オーディオで言うHiFiというのは、音としてはクリアになっているんですけど、僕のイメージでは奥行き方向へどんどん表現が深まっていく感じがあります。ですがギターアンプの場合は、音が前へ前へ飛んでくるというのが重要なんです。そのために歪み感というのは、非常に重要に作用する。オーディオマニアのかたはHiFiとして一生懸命やられてますけど、その一歩手前のレコーディングエンジニアは、実はそうでもないんですね。パワフルな感じを出すために、歪みを上手くコントロールしているわけです」(池上氏)

 だが歪みの表現として、ボーカルを歪ませた例というのはないこともないが、定着するまでには至っていない。なぜ歪みはエレクトリックギターなのだろうか。

 「エレクトリックギターの生の音というのは、ダイナミックレンジが広すぎて、平均音圧が低いんですね。いろんな楽器が混じったときに、自己主張、すなわち前面に出ようとすると、平均音圧を上げる必要があるわけです。そのときに音を潰してやると、自分の音がグッと前に出ることに気付いたわけですね。ある意味では、フロントマンになりたいという意識が、そういうものを産んだのではないでしょうか」(池上氏)

 表現の範囲という意味では、今もギタリストとボーカリストの意識はかなり違うという。

 「ボーカリストで自分のマイクを持ち込むという人は、あまりいません。マイクの用意はPAの仕事なんですね。ですがギタリストは、ギターとエフェクター、ギターアンプまで全部持ち込みます。そこまでが自分の仕事であるという意識があるんでしょう。ボーカルが歪みの表現に至らないというのは、声の拡声がPAの仕事であって、PAは音の歪みを排除するのが仕事である、ということも無関係ではないかもしれませんね」(池上氏)

 しかし、なぜ真空管やダイオードの歪みはOKで、MP3など圧縮に起因するデジタル系の歪みは聴くに堪えないのだろうか。

 「デジタルに起因する歪みが不快なのは、おそらくサンプリング周波数との関係で発生するエイリアスノイズが関係するんだと思います。このノイズは、入力された音とは無関係なスペクトルが発生しますので、音楽に対して追従しないんですね。一方アナログ的な歪みというのは、入力に対してある程度の相関関係を持つ高次倍音が発生していくので、入力信号に対して調和しているわけです」(池上氏)

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