ここ最近のローランドとBOSSの製品は、COSM (Composite Object Sound Modeling) というオリジナル技術によって飛躍的に進化した。これは「音のモデリング」とも呼ぶべき技術で、チップや電気回路、ボディ構造や素材など、音に影響する様々な要素を解析してデジタル化していき、それらをもう一度理論的にくみ上げていくという、非常に手のかかる解析・再構築技術である。
音をシミュレーションするという意味では、サンプリングは手軽にある程度のレベルの音を提供してくれる技術だ。だが演奏として求められる微妙なニュアンスにまでは、追従できない。一方COSM技術では、素材レベルから音源を組み立てていくため、微妙なニュアンスまですべて作り出すことができる。
そしてCOSM技術は、エフェクターの世界でも強力だという。
「例えばあるギターアンプをシミュレーションするとします。オリジナルのギターアンプではツマミが10までしかない。しかしCOSMによって再構築されたギターアンプでは、ツマミを12まで回したときにどういう音になるか、ということが表現できるわけです。シミュレーションというのは、せいぜい上手くできてもオリジナルと同等までしか行きません。モデリングは、シュミレーションを超えられる次のステップなんです」(池上氏)
その一方で、トラディショナルな歪みを守るという技術もしっかり残っているのは面白い。ローランドにはギターアンプの名器として、Jazz Chorus「JC-120」というモデルがある。最初の発売が1975年というから、今年でもう30周年を迎えたわけだが、一貫してスタイルを変えていない。だが変えないということは、技術的には非常に難しいのだという。
「JC-120は30年間、音を変えずに生産し続けてるわけですが、いくらソリッドステートとは言っても、供給されるチップは年を追うごとに変わっていくわけです。ですが最終的に出る音は変わらないようにする。同じ音を出し続ける技術というのも、ちゃんと技術者が世代交代するときに技術継承できなければならないわけですから、そういうところも我々の財産かなと思っています」(高田氏)
そしてこのJC-120に搭載されているスピーカーも、メーカーと協力してカスタムメイドを続けているという。同じ歪みの守っていくのにも、大変な労力がかかっている。
もちろんスピーカーの歪みにおいても、ただ成り行きで歪めばいいというわけではない。最新のベースアンプ「D-BASS」シリーズ用に開発したユニットは、なんと磁気キャビネット内に赤外線センサーを仕込んで、コーン紙の振動を監視している。入力信号に対して違う振動、例えば慣性などの余計な振動を検知して、それを制動する。
使える歪みはそのまま使い、使えない歪みを排除していく。これなどは、オーディオの世界でもサブウーファなどに応用可能な技術だろう。
ただ歪めばいいだけではない。意味のある歪みは、音楽をより豊かにしてくれる。楽器の世界だけでなく、オーディオの世界でもこれを上手く使うことは可能かもしれない。我々リスナーもただ聴くだけではなく、もう少しアグレッシブに挑戦できる部分があれば、もっと積極的に音楽を楽しめるようになるはずだ。
音楽を聴くことも、もっと深い意味で「PLAY」と呼べる時代が来ることを期待したい。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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