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人は後世に何を残せるか小寺信良(2/3 ページ)

» 2005年11月07日 10時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

著作権法の限界

 著作物であるかどうかの判断は、時として我々がイメージとして抱いているようなものとはズレていることがある。今年の10月6日に知的財産高裁が出した判決では、記事の見出しは著作物ではないという結果が出た。これは読売新聞が、同社の記事の見出しをネット向けに配信した事業者と、著作権侵害であるかを争った裁判である。

 この判決が「我々がイメージとして抱いているものとのズレ」と表わしたのは、筆者が引用される側で損するからだろう、と勘ぐられるとちょっと違う。そうではなく、記事を作る現場を知っているから、変に思うのである。

 今回の判決では、その前段階の東京地裁の判決を支持している。つまり『見出しは事実をごく短く制約のある形で表現したものであって創作性があるとは言えず、「思想または感情の創作的な表現」と著作権法が定義した「著作物」には当たらない』と言い切っちゃったところが、ある意味すげえなと思うのである。

 例えば仮に、「新宿で放火 今月で3件目」という見出しがあるとしよう。これは確かに事実を述べているだけで創造性はないように思われるが、今どきこんな見出しでは誰も読んでくれないことは分かり切っている。これを「また新宿でボヤ騒ぎ 連続放火か!?」といった具合に犯罪に対しての嫌悪感と危機感を示せば、多くの人に興味を持ってもらえるだろう。

 筆者もテレビではあるが、報道の経験がある。中でも記事のタイトルというのは非常に重要で、興味を持って見てもらうためにあれこれと考えるものだ。だが散々考えたとしても、ほとんどの場合、記事の担当者が考えたタイトルがそのまま採用されることは少なく、そこはやはりベテランのデスクや編集長の直しが散々入って、ああでもない、こうでもないとやるわけである。そこに「創造性がない」と言われたのでは、当事者としてはお金云々ではなく、作り手の気持ちとして報われない思いだろう。

 報われない話では、もう1つある。先週、友人のシェフが銀座にレストランを開業するというので、そのWEBサイト用の写真撮影をした。中華をフレンチ風に盛りつける独特の料理は、見た目も非常に美しい。それもそのはずで、中華のシェフがフレンチのコーディネーターと「ああでもない、こうでもない」と喧々囂々長い時間をかけてアレンジしていくわけだから、その過程は創造性が高い。

 だが料理のレシピや盛りつけは、著作権では保護されない。著作権法第2条1項によれば、著作物の定義とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」なのである。

 創造性の高い料理の盛りつけは、思想又は感情を創作的に表現したものではあるが、文芸、学術、美術又は音楽とは言えない。美術的な要素はあるが、本質は食い物であるから、競合レストランが同じ皿で同じ素材を調理して盛りつけても、おそらく損害賠償は請求できないだろう。

 しかしその一方で、料理をパチリと撮った写真は、著作物なのである。まあ撮る方もちゃんと工夫して撮っているわけだが、著作権法は作品の出来の善し悪しを問わない。うちの2歳になる娘が感情の趣くままに描く得体の知れないラクガキも一緒くたに、著作権法で保護される。

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