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れこめんどDVD「イマジン/ジョン・レノン」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2005年12月16日 17時30分 公開
[飯塚克味,ITmedia]
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ジョン・レノンの魅力、そしてヨーコ・オノの存在とは

 面白かったのはビートルズ時代から考え方が少しずつ変化を見せ、平和愛好者として活動するに至った経緯がとても理解しやすい点だ。音楽で世界を制覇したものの、実際は音楽を聴いてもらえず、アーティストとして欲求不満になったジョンはその後、ヨーコ・オノと出逢い、ビートルズは解散へと向かう。

 ビートルズを解散に追いやったヨーコ・オノに対する批判は当時も今もあるが、ジョン・レノンには欠かせなかった存在でもあったことが、彼の言葉からとてもよく伝わってくる。ジョンの思想の根元に、ヨーコが大きく影響を与えていたのも真実だろう。

 作品の中盤からはヨーコ・オノの存在が圧倒的に中心となってくる。7日間のベッドインタビューにはかなりの時間が割かれているが、そこでは「非暴力、寛容、肯定を唱えたガンジーのやり方が一番」と語るジョンに、「ベッドで平和を唱えるのが正しいやり方?」と意地悪な質問が記者からかけられる。それに対して「今の時代、宣伝がものを言う。効果的に意見が伝わるんだ」とマスコミの使い方も心得た発言が飛び出し、彼がただの平和主義者でないことも描かれる。

 マンガ家のアル・ジョンソンやニューヨーク・タイムズの記者がジョン・レノンとヨーコ・オノに対して批判を繰り広げる場面もまるで「朝まで生テレビ」を見ているかのようで興味深い。

 しかし最大のクライマックスは前半に据えられたヒッピー風の男がジョンの家を訪ねてきて、正体不明なのに話を聞いて、食事まで誘うところだろう。男の目つきは明らかに怪しげで、もし電車でそばにいたらイヤだな〜、と思えてしまう風貌なのに、ジョンは高飛車になることもなく、真摯に彼の話に耳を傾けるのだ。この場面でジョン・レノンという人物の器の大きさに圧倒されてしまった。

ジョンの歌は生き続けている

 映画のラスト、「70年代は散々だった。80年代は良くしよう」と言ってから映し出されるジョンの死のイメージ。そして家族のコメントに続いて流れる「イマジン」からはジョンの平和へのメッセージが痛いほど伝わってくる。わずか40歳で旅立ってしまったジョン・レノン、もし彼が生きていたら、現在の世界を見てどのように感じたのだろう? そんなことを考えながらエンドロールを眺めていた。

 先に「この年齢になって見ることができて良かった」と書いたが、精神的に未熟だった自分にとってジョンのメッセージを受け止めるには、公開当時はまだ若すぎたのだと思う。しかしそうは言っても、ビートルズやジョン・レノンの曲を全く聞いたことのない世代にこの作品を勧めて感想を聞いてみたいとも思えてくるから不思議だ。

 でもそれって実は自分が学校や塾の教師に語られたことをまた繰り返す事になるのではないだろうか? そういえばメイキングでもヨーコ・オノが語っていた。「ジョン・レノンは死んでも彼の言葉や音楽は生きている。彼の精神はここにあるのだ」。ジョンの思いを語り継ぐ人々がいる限り、その言葉は真実であり続ける。

作り手の熱い思いは特典にも

 特典は合計約40分を収録。「ジョン・レノンに捧ぐ:The Man,The Music,The Memories」は本作を振り返る15分のメイキング。「失敗は許されない仕事。緊張した」と語る監督・製作・脚本のアンドリュー・ソルトや、「ビートルズは知っていたが、シナトラのファンだった」と語る製作のデビッド・L・ウォルバーが登場。

 ビートルズに夢中でない彼らに製作を委任したヨーコ・オノは「歴史に残るようなジョンの映画を作ってほしかった。ファンじゃないからこそ客観的に作れる」と彼らの仕事に満足げだった。製作のデビッドもプロ意識は相当しっかりしていたようで、「ヨーコには一切口出しさせなかった。これはドキュメンタリーであって、二人の恋物語ではないからね」と語っている。作り手の思いも熱かったからこそ、本作は良質な作品として、ほかに数多ある記録映像とは一線を画し愛されているのだろうと実感できる特典だ。

 そのほかには「BBCラジオ・インタビュー:True Be Told」(約5分)や「Imagine:アコースティック・バージョン」(3分30秒)、「Island Houseでの素顔」(約8分)など本編に収まりきらなかった映像も収録されている。「学生時代を振り返る」(約10分)ではジョンが通っていたクオリー・バンク高校のポブジョイ校長が登場。少年時代のジョンについて語ってくれる。本編映像に豆知識を表示してくれる「ジョン・レノン トリビア」にはマニアックなファンも満足だろう。

 本編はスクイーズ収録のビスタサイズ。画質は素材の状態がまちまちなため、相当ばらつきがある。しかし、主な素材はフィルム素材なので、見づらい場面は少なかった。

 音響はステレオと表示されているが、ドルビーステレオで製作された作品なので、サラウンド信号がエンコードされていると思われる。視聴もサラウンド再生で行った。最近作のような派手さはないが、内容の力強さもあってじっくり作品に吸い込まれるような印象だ。音楽シーンになると音も元気が出てくる。チャプターは全部で26あるが、曲名などが分からないメニューになっているので、やや不親切と感じた。もっとも本作は音楽主体の作品ではないので、純粋に音楽を聴きたければCDやライブを見た方がいいかもしれない。この作品はあくまで人間、ジョン・レノンの姿を追った作品なのだという事を忘れないでほしい。

 価格は3980円(税込)と一般的だが、内容や特典が充実しているので、低価格を待たずに購入しても後悔するようなことはないはずだ。

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