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PCモニタの終焉がもたらす「マルチキャストルーム」構想小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年02月06日 10時20分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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変質する部屋

 そして同時にライフスタイルも、もっと現実的なビジョンを描くべきだろう。今PCメーカーはアメリカのような「リビング」なるものが日本の家庭にも厳然と存在し、そこに向かってPCを持ち込もうという絵を描こうとしている。

 しかし筆者には、現状の日本の家庭に存在するリビングにおいて、テレビとパソコンがどうのこうのといった絵など、ちっとも共感できない。リビングなど、寝っ転がってテレビ見るだけの空間でいいのだ。そういう部屋が必要だから、リビングはそういう形になったのである。

 大型マルチモニタがもたらす未来は、リビングの改革ではない。それはむしろ、リビングとも仕事部屋とも言えない、「マルチキャストルーム」の出現である。

 何かを作ったり入力したりと能動的な作業をするときは、前記のようなPCスタイルで。コンテンツを見るといった受動的な楽しみでは、椅子とキャスター付きの机を脇に押しやるか、あるいはモニタ自体を回転させて、ソファでくつろぐ。大型マルチモニタがテレビとPCモニタの2WAYであるならば、部屋自体も2WAYで使えるということなのである。

 あるいはカウチテレビ族が存在するように、カウチに寝そべったままPCを使うというスタイルも、PC周辺機器メーカーが本気で走り出せば、実現可能かもしれない。

 これは現在のように、リビングに存在するテレビとして眺めた場合、放送もIPも同じに見えるよね、という発想ではない。むしろその逆で、自室でIPコンテンツとしてすべてを眺めているときには、WEBもテレビも同じに見える、という発想なのである。

 このマルチキャストルームは、40歳を超えたPCユーザーの理想郷だ。そしてその発展系は、次第に子供部屋などにも応用されていくだろう。家族の団らんは、食事を共にするダイニングキッチンに集約され、リビングルームは必要なくなり、すべての部屋がマルチキャストルームになる可能性もある。

 そういう家庭は不幸だ、と思うだろうか。しかし家族の幸せは、リビングルームの有無で決まると思いこんでいることこそ、不幸ではないかと思う。オヤジが来ると娘が出ていくようなリビングルームなら、あるだけ無駄だろう。

 それよりもむしろ、マルチキャストルームで自分の時間をよりコンパクトに整理することで、家族と過ごす時間が増えるという具合に考えてみよう。家族の絆は体験の共有で深まるとするならば、テレビやWEBのバーチャルな視覚体験を共有するより、一緒にどこかへ出かけてリアルな体験を共有する方が、人間の生活として真っ当である。

 マルチキャストルーム構想は、筆者が考える一つの絵に過ぎない。しかしバカの妄想と笑うなかれ。いずれにしてもこのまま黙っていたのでは、テレビとIPの融合なんて、どうせNTTしか儲からない仕掛けなのである。

 みんなが幸せになる絵が描けなければ、産業として推進する意味など全然ないのだ。そこのところを肝心のJEITAや関連企業がわかっているのか、ちょっと心配になっているのである。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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