地上デジタル放送やワンセグが話題となったこともあり、「放送のデジタル化」という言葉を耳にする機会も増えた。視聴区域の拡大やコピーワンス番組の録画見直しなど、いくつかの課題も存在しているが、テレビのデジタル化は着実に浸透している。
現在、「デジタル放送」といえばテレビ(地上デジタル/ワンセグ)を指すが、音声放送の「デジタルラジオ」(地上デジタル音声放送)も2003年10月から試験放送が行われており、2006年中には本放送を開始する方針が打ち出されている。タイムリミットは刻々と近づいているはずなのだが、テレビのデジタル化に比べて、デジタルラジオはほとんど周知されていない。なぜだろうか?
デジタルラジオとは、文字通り変調方式にデジタル変調方式を採用した音声放送だ。現在行われている試験放送では、関東は東京タワーから、関西は生駒山の電波塔から周波数190.214286MHz(VHFの7チャンネル)で送信が行われている。
出力は800ワット/240ワット(関東/関西)で、それぞれは8セグメントに分割されている。1セグメントは300kbpsの帯域を持つが、セグメントを3つ束ねて利用する3セグメント放送も想定されており、東京では1セグメント×5と3セグメント×1の計6チャンネル、大阪では1セグメント×8の8チャンネルで放送が行われている。
デジタルラジオの最大の特徴は音の良さ。「音質で言えばCD以上のクオリティ。1セグメントを6チャンネルに分割しても現在のFM放送なみのクオリティを保持できる」(デジタルラジオ推進協会 放送・普及広報部長 松村安紀氏)のだという。
そのほか、音声多重放送やデータ放送も可能で、EPG(電子番組表)も用意される見込み。3セグメント放送では「5.1chサラウンド放送」「放送波を利用したダウンロードサービス」「簡易動画放送」なども可能で、これらの特徴を組み合わせ、本放送開始の際には「曲を聴きながらコンサートのチケットを購入する」「クイズ番組への参加」「ビデオクリップのダウンロード」といったサービスが想定されている。
すでにピクセラが2005年12月にワンセグ/デジタルラジオの双方に対応する携帯型受信機を発表(関連記事)、製品化する意向を明らかにしているほか、デジタルラジオ推進協会も試作機を利用した受信デモをA&Vフェスタなど各種展示会で行っている。
筆者も実際に試作受信機で放送を聞いてみたが、確かに音質はこれまでもラジオに比べて一線を画するものであると感じられた。デジタル放送なので、受信さえすればノイズが入らないのも快適だ。ラジオといえば“音が聞こえる”程度に認識されているが、デジタルラジオが普及すれば“音を楽しむ”という新たな側面が注目されるだろう。
「技術としてはほぼ完成しており、一部を除きレディの状態」(松村氏)というが、本サービスがいつから開始されるのか詳細な日程はアナウンスされない。それはなぜだろうか。その原因を探るには、まず「放送のデジタル化」がどのように進められてきたのかを紐解く必要がある。
1997年10月、当時の郵政省(現在の総務省)に設置されていた「地上デジタル放送懇談会」は技術の進歩や諸外国の事情、電波の有効利用などの観点から、放送のデジタル化を推進すべきとの報告書を提出した(総務省 地上デジタル放送懇談会 報告書)。
その報告書を受けた政府は、2001年3月に策定した「e-Japan 重点計画」に放送のデジタル化推進を盛り込む。その後、テレビ業界は2003年8月にデジタルテレビ放送の推進団体として「地上デジタル放送推進協会」を設立、地上デジタル放送/ワンセグの実用化に向けて動き出し、2003年12月には本放送を開始。2005年10月にはフルパワー送信を開始するなど順調にデジタル化を進め、現在に至っている。
ラジオ業界も2001年10月にAM/FMラジオ局および一部テレビ局や家電メーカー、通信会社、自動車会社などが推進団体の「デジタルラジオ推進協会」を設立。2003年10月には総務大臣から実用化試験放送の免許が交付され、試験放送を開始している。
これまでの経緯を簡単に述べるとこのようになるが、テレビのデジタル化が迅速に行われたのは、報告書に「テレビはデジタルへ完全に移行(=アナログ停波)することが望ましい」と記載されていたことが大きい。これはHD放送の実現など、テレビがデジタル化することで得られる恩恵が大きいことも理由だが、デジタル放送を開始する以上、アナログ放送を継続するだけの帯域を維持することが電波行政上困難になったことが最大の要因といえる。
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