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デジタルラジオの憂鬱コラム(2/2 ページ)

» 2006年05月10日 23時49分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 一方のラジオはいささか事情が異なる。デジタル化を推進することは報告書にも記されているが、デジタルへの移行ではなく「デジタルの追加」として推進することが方針とされたからだ。

 報告書を見ると、1)「地上デジタル音声放送」として既存のAM/FMに替わる放送ではなく、新たなサービスとしてデジタルラジオを開始すること、2)2011年のアナログテレビ放送波停止まではVHF帯の空きチャンネルを利用すること、3)新規事業者の参入を認めること、の3点が方針とされている。

 ラジオもデジタル化によって、高音質化やデータ放送の提供など、よりリッチな表現力を手にすることができるが、現在のアナログ放送がもつ受信機の簡易性や災害時などに有用な情報伝達手段としての性格は薄れてしまう。

 特に災害時の情報伝達手段として“枯れた放送メディア”である既存のAM/FMラジオが果たす役割は大きいことから、懇談会は既存ラジオをそのまま残し、「テレビはデジタル移行(アナログ停止)、ラジオはデジ/アナ併用」の方針を提案したといえる。

技術の進歩が混乱を招いた――本来の開始タイミングは2011年

photo デジタルラジオ推進協会 放送・普及広報部長 松村安紀氏

 「日本の電波は既に空き帯域がほとんどない“いっぱいいっぱい”の状態なんです。デジタル化することによって必要な帯域幅を圧縮し、電波の空き地を作るのが放送のデジタル化における大きな目的でした。本来ならば、2011年にテレビのデジタル化(アナログ停波)が完了し、空いたテレビの帯域を利用してデジタルラジオを放送するのが、デジタルラジオのサービスが想定された1998年当初のイメージでした」

 「しかし、モバイル放送やワンセグが実用化されるなど技術の進歩が予想を上回り、デジタル化を前倒しせざるを得ない状態になりました。そこでテレビのデジタル完全移行を待てなくなり、試験放送で利用している7chをそのまま本放送でも利用することになりました。急速なデジタル化が要求されたため、狭い空き地をそのまま使うことになってしまったのです」(松村氏)

 本来、デジタルラジオは2011年まで試験放送を継続し、テレビがデジタル化したのちに帯域を移動して本放送を開始する予定だったのだ。しかし、モバイル放送やワンセグなどライバルの放送サービスが予想以上のペースで実用化に踏み切り、ラジオ局らはデジタルラジオの存在感が弱まることを恐れた。

 そんななか、冒頭でも述べたが総務省は「2006年中にデジタルラジオの本放送を開始すること」という方針を固めた。これは同省が2005年5月に発表した「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」の報告書で明らかにしたものだ。早期本放送開始はラジオ局らが望んだことではあるが、急ピッチで本サービスに向けた整備を行わなくてはならなくなったのも事実だった。

2006年中の開始を目指すが、開始後も問題は山積

 開始まで時間的余裕があったはずのところを、5年の前倒しである。さまざまな歪みが表面化したのも無理はない。もっとも大きなしわ寄せがきたのは、事業者免許についてだろう。テレビのように1局=1免許の形態も想定されたが、在京民放ラジオ局5社は2005年10月に、共同で1つの放送免許を取得して周波数を参加企業へ分配する事業企画会社「マルチプレックス・ジャパン」を設立した。2006年のサービス開始のため、1局ずつ免許申請をしていては間に合わないのでは……という判断もあったことは想像に難くない。

 受信機を作る技術はほぼ完成し、放送を行う事業体も放送開始に備えた作業を進めつつあるが、最大の問題が残っている。肝心な電波送信に必要な免許交付の方針が決定していないことだ。事業者に放送免許が交付されなければ電波を送信できず、受信エリアを左右する送信出力についても、免許がなければ数値を定められない。

 電波及び放送の規律に関する事項を調査し、政府へ答申するのは電波監理審議会(電監審)だが、5月上旬現在、デジタルラジオの免許交付に関する方針は示されていない。免許方針が決定しても、その後に必要な本放送のための免許申請受付期間や、予備免許申請期間、受信機のテスト期間などを考えると、2006年中にサービスを開始するために残された時間はわずかといえる。

 電監審は月1回のペースで開催されているので、6月に行われる予定の審議会で免許交付の方針が決定すればギリギリながらも2006年中に間に合う公算が高い。「6月に免許交付の方針が決定すれば、6月末には本サービスのロードマップが見えてくるかもしれない」(松村氏)

 ただ、こうして2006年中に本サービスが開始されても、それは「なんとか開始できました」というレベルにとどまる可能性が非常に高い。全くの新放送サービスであり、スケジュールも5年の前倒しが行われている。あと半年足らずでは、十分なユーザー認知度向上も行えないだろう。

 関連各社にとっては、本サービスの開始後が本当の勝負どころだ。受信可能エリアの拡大や魅力的な対応受信機の用意、なによりも魅力的なコンテンツを用意できるかといったテーマに取り組むことになる。課題の数は多く、一朝一夕に解決するものではない。

 デジタルラジオの憂鬱はまだまだ晴れそうにない。

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