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仕事はデジタルで、作品はフィルムで――池本さやか写真家インタビュー(2/3 ページ)

» 2006年05月12日 16時00分 公開
[永山昌克,ITmedia]

プリントのクオリティにこだわる

――池本さんはカメラ誌のフォトコンテストの審査員や、写真教室の講師もされていますが、一般の人のプリントを見て何か感じることはありますか?

池本さん: レタッチソフトで加工しすぎて元の美しさが損なわれていると思えるものや、もう少しきれいにプリントしたらもっといい写真になりそうなものをよく見かけます。撮影はフィルムなのに、自宅のプリンターで出力されているケースは、特にその傾向が顕著です。デジタルが主流になって利便性や自由度は拡大しましたが、その半面、広すぎる選択肢に惑わされている人が多い気がします。

 よく言われることですが、写真は最終的にプリントして仕上げるところまでが表現です。デジタルでもフィルムでも、プリントのクオリティは、大事にしてほしいと思います。

――講師の立場でアドバイスするとすれば?

池本さん: いいプリントを仕上げる最短で最良の方法は、きちんと露出を測り、正確にピントを合わせ、とにかくしっかりした撮影を心がけることです。これは銀塩もデジタルも同じです。

 また、プリントを見る目、料理でいうと舌を養うことも大切です。できるだけ多くのプリントを見て目を養いつつ、自分自身でプリントしてトライ&エラーを繰り返すしかありません。それなりにお金もかかってしまいますが、自分を豊かにするための投資ですから、悪いことではないでしょう。

――プリントの質に限らず、写真を評価したり、評価されることについて、どんな考えを持っていますか?

池本さん: 写真の見方が分からない、何がいいのか分からない、と言われることがよくあります。でも実際には、写真なんて、単に好きか嫌いでしかないと思うんです。そのことをもっと開き直って考えて欲しいですね。プリントのクオリティに関しては、良し悪しは言いやすいですが、写真の内容そのものの見方については、教科書のような基準はないはずです。

デジタルとフィルムはまったく別の表現

――これまでの作品では、モノクロの水中写真が印象的ですね。水中ではどんな撮り方をしているのですか?

池本さん: 水中撮影にも様々な撮り方があるでしょうが、私の場合は、小さな魚などをアップでとらえるよりも、大型の動物や魚の群れなどをワイド系のレンズで撮ることが好きです。どちらかといえば、生き物だけを撮るというよりも、自分が海の中に行き、そこで見たいものを見る、撮りたいものを撮ること。楽しみながら海に潜って撮る、という感覚です。

 ふつうの人間がスキューバのタンクを背負って海の中に居られる時間は1回潜っておおよそ1時間弱、1日にそれが1〜3回、多くても4回です。その中で、イルカやマンタなどの大物に出会える確率は高くはありません。しかも、たとえ運良く出会えても、シャッターチャンスは決して多くはありません。見つけたら急いで近寄ってカメラを向けますが、向こうのほうが先にこっちの存在に気が付いてます。彼らと水中で競っても絶対に勝てません。一瞬のシャッターチャンスをものにできるかどうかが勝負ですね。

photo The Size of the Galaxy-2 カブトクラゲ。大きくても体長10cmほど。山形県鶴岡市の加茂水族館にて。撮影2005年12月

――水中撮影での使用機材を教えてください。

池本さん: フィルムカメラはニコンの水中カメラ「ニコノスV」をメインに使っています。目測でピントを合わせるカメラですが、道具としての信頼性や、機動力の高さ、使い勝手のよさが私のスタイルに合っています。マクロ撮影では、60mmのマクロレンズを付けたニコン「F-801」も使います。また、デジタル前提の仕事なら「E-300」を使用します。

――水中写真ではデジタル化のメリットは大きいですか?

池本さん: フィルム交換が要らないメリットは大きいと思います。通常は、船の上でフィルム交換を行うことが多いですが、その際、自分の身体に付いた水をふき取ったり、カメラ内に水滴が入らないように十分に注意する必要があります。私自身は慣れたのであまり苦にしませんが、面倒と言えば面倒な、神経を使う作業かもしれません。

 またライブビュー撮影ができる「E-330」やコンパクトデジカメの場合には、ファインダーを覗かなくていいメリットがあります。例えば顔を近づけると逃げてしまう魚でも、手だけを伸ばしてシャッターを押せばうまく撮れるケースもあるでしょう。

 しかし、デジタルのデメリットもあります。万が一、カメラが水没した場合、フィルムなら、現像すればかろうじて何かが残っている可能性がありますが、デジタルではデータも機材も一瞬にして失われる確率が高いですね。一長一短かもしれません。

――もしニコノスVのような、機動力のある水中専用のデジカメが登場すれば、池本さん自身の作品撮りもフィルムからデジタルに移行しますか?

池本さん: 写真展の依頼などがあれば別ですが、作品撮りのデジタル化はあまり考えていません。私にとっては、写真はフィルムで撮るものという感覚が抜けません。デジタルは、フィルムとはまったく別の表現手段として、選択肢が増えたとは思いますが、将来的にフィルムに取って代わるものとは考えていません。

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