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定着した? 音楽配信の今後の課題コラム(2/2 ページ)

» 2006年05月25日 00時08分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 具体的な収支について鈴木氏は明言を避けたが、「月間ダウンロード数が100万を超える」(鈴木氏)Moraですら、決して安心できるほどの利益は確保できていない様子が伺える。ただ、ほんの1〜2年前には「ビジネスとしての音楽配信は苦しい」という意見が多かったことを考えると大きな変化だ。

photo レーベルゲート EMD企画部 プロモーション・チーム プロデューサー 鈴木則孝氏

 収支改善のほか若年層の利用者も増加しており、音楽配信の定着という意味ではある程度の手応えを得ているようだが、いまだに音楽配信サービスが始まって以来の課題、「楽曲数の不足」は課題として残っているという。

 「ダウンロードされる曲が、チャート上位のヒット曲に集中しすぎる傾向があるように感じます。利用者が求めるのはヒット曲だけではないはずですから、もっと楽曲数を増やして、利用者の幅広い要望に応えていく必要がありますね。ユーザーアンケートでも要望の1位は楽曲数の増加で、低価格化や高音質化を望む声より大きいです」

 他の事業者と同様、レーベルゲートも以前から楽曲増加について積極的に取り組んでおり、現在では約50万曲を配信する。これは昨年同時期の3倍以上にあたる。また、各レコード会社も音楽配信を重視し始めており、ダウンロード購入可能な楽曲数は急速に増加している。

 楽曲数の不足という課題はいまだ残るものの、懐メロやクラシックなどこれまであまり扱われなかったジャンルの楽曲も入手できるようになり、音楽配信は徐々に定着しつつあると考えて良さそうだ。しかし、定着しつつあるがゆえに、単純にネットで楽曲を提供しても話題にならなくなっていることも事実。そこに今後の課題が見える。

ディテールが勝負を分ける時代に

 「最近ではレコード会社と楽曲提供の話をしていると、どのような切り口、見せ方で販売していくのかを質問されることが増えてきました。Moraは音楽配信サイトですが、豊富な楽曲が用意されただけの“配信ポータルサイト”ではなく、CD販売店のような役割を期待されているように感じます」

 レコード会社のCD販売店担当営業マンの経験もある鈴木氏は、レコード会社各社がMoraへ求めている役割の変化を肌で感じている。CD販売店ならばCDがあるのは当たり前で、それをどのように来客へアピールするかが売れ行きを左右する。音楽配信サイトも同じで、「音楽ショップ」としてどれだけ音楽に対して敏感に反応し、利用者へ提案できるかが今後のカギになる。

 「トリノオリンピックで荒川静香選手が金メダルを取った演技で使われた“トゥーランドット”は何のアピールもしていなかったのに、かなりのダウンロード数を記録しました。もっと世間でどんな音楽が流行するのか、敏感に反応していかなくてはいけないと痛感しました」

 テレビで放送中のドラマがヒットすれば主題歌や挿入歌を歌うアーティストをプッシュし、FMや口コミでジワジワと人気が上昇している曲があれば、素早くキャッチしてコーナーを設ける。クリスマスやオリンピック、ワールドカップなど世間的に注目されるイベントもフォローしていく。音楽への感度が高いサイトだけが生き残っていく時代になることを鈴木氏は予感している。

 「やりたいこと、やれると思うことはたくさんあります。何から手を付けていこうか、迷うところですね(笑)」

 鈴木氏は自信を見せるが、音楽配信の定着は新たな競争の始まりとも言える。Moraのように音楽センスを武器にアピールするサイトもあれば、新譜配信の早さをウリにするサイト、特定分野の音楽に特化することで支持を集めるサイトもあるはず。今後は、漠然と楽曲を配信するだけではなく、センスや早さなどのディテールにこだわったサイトが注目されていく時代になるだろう。

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