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私的録音録画制度に潜む問題対談 小寺信良×津田大介(2)(2/3 ページ)

» 2006年06月19日 17時14分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

コンテンツの「ネットワーク化」が問題だ

小寺氏: コンテンツをデジタル化することで、無劣化のコピーができるようになった。だからコピーを制限しなくてはならないという考え方がありますが、そういうならば、デジタル化そのものが間違いということになってしまいます。そうではなくて、ネットワークへの流出が大きな問題なのです。

 iPodがなぜヒットしたかと言えば、イージーに大量の曲をデジタル転送できたからです。けれど、iPodのHDDに取り込んだ曲を自由にネットへばらまくことはできない。自分の買ったコンテンツをどう使おうが自由じゃないか、という思想・発想がよく分かります。

 アメリカという国は日本ほどPCを無視できません。日本人のPCリテラシーが上がったといっても、生活になくてはならないというレベルではない。アメリカの音楽産業はPCを敵視していません。PCという産業を取り込んでしまった方が儲かるし、自由にやれる。

 PCを敵視しないことでPCとコンテンツ産業と消費者がすべて笑える、Win-Win-Winの関係を築いているんです。日本の場合はそこが分かってない。ネットワークでコピーされるのがイヤだからPCを規制する。蛇口の元栓を閉めようとするようなモノですね。

 日本でもPCを出口としたコンテンツビジネスがたくさんスタートしていて、そうしたサービスのためにはPCは絶対に必要なのに、そこに規制を加えるような行動をしていては、非常に閉鎖的なモノしかでてこない。PCを敵視する方向性は間違っていると僕は思います。

photo 津田大介氏

津田氏: 著作権は法律として整備されているかも重要ですが、著作者が認めるかどうかという視点も重要だと思うんです。著作者さえ認めれば、どんなビジネスも合法になる可能性を秘めています。

 日本でYouTubeのようなサービスが開始されても、コンテンツの著作者がそこに出すことを許諾していれば、そのコンテンツについては合法になる。でも、日本では「出る杭を打つ」的な雰囲気もあるわけで……。著作者でもない人がネット上の著作権侵害を変な正義感から「通報」したりね。

――蛇口のコントロールといえば、デジタル放送のコピーワンスも再検討の俎上にあがっているようです。

小寺氏: 現在のコピーワンスのやり方では、徐々に盛り上がりつつあるモバイル動画の市場を殺すことになります。モバイル機器に転送したら、元のハイビジョン映像が消えますよ、では明らかに利便性を損なうことになりますから。

 PCでの録画も非常に不自由ですよね。この前行われたWinHEC(Microsoftの主催するWindowsの開発者向けセミナー)でも、ARIBが決めたデジタル放送のPC向け制約が不透明で、問い合わせしたくても窓口がよく分からないという声が聞かれました。コピーワンスの存在は多くの産業を阻害していると言えます。

 本来ならばこうした問題は消費者/権利者の間で話し合われるべきなんですが、日本の場合は少しでも市民が集まると「プロ市民」なんて呼ばれてしまったりして(笑)。なかなか消費者運動が定着しにくい土壌があるのも影響しているように感じます。

津田氏: 消費者運動といえば食品の物価であるとか生活に直結するもがどうしても重視されがちで、ITやコンテンツについて理解が乏しいという構造的な問題を抱えている。日本にもEEF(Electronic Frontier Foundation:電子フロンティア財団 デジタルに関する諸権利の擁護団体)みたいな団体ができるといいんでしょうけれど……。

小寺氏: 現状、消費者を代弁する形になっているがメーカーですね。コピーワンスについては消費者とメーカーの希望が一致しているからですが。

津田氏: 補償金の議論についても、いちばんがんばっているのがJEITA(電子情報技術産業協会)や日本メディア工業会ですね。

小寺氏: ただ、渦中のアップルコンピュータがJEITAの会員じゃないという問題もありますけどね(笑)

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