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デジタルで撮る身近な昆虫写真――水上みさき写真家インタビュー(2/3 ページ)

» 2006年07月03日 17時00分 公開
[永山昌克,ITmedia]

昆虫に接近して撮るコツ

――そもそも昆虫写真を始めたきっかけは?

水上さん: 子どもの頃から昆虫には興味がありました。といっても、ただ面白がって見ているだけで、特に専門的なことを勉強していたわけではありません。また写真に対しても憧れの気持ちはありましたが、自分には難しいかなと思っていました。

 そんな時たまたま海野和男先生の昆虫写真を見て、こんな世界があるのか、と感銘を受けました。今から約13年ほど前のことです。そして、見様見真似で昆虫写真を始めたのですが、徐々にのめり込み、あるコンテストをきっかけにして、その審査員をしていた海野先生に実際に出会うことができました。以後、先生に師事し、昆虫のことや写真のことをいろいろと教えていただきました。

――E-500の写真展での作品は、短いレンズを使い、小さな蝶にかなり接近して撮っていますね。昆虫に近寄る方法など、撮りかたのコツを教えてください。

水上さん: どうして昆虫が逃げないのか、という質問は時々受けますが、近付くこと自体はそんなに難しいことではありません。昆虫は個体個体でそれぞれ性格があり、警戒心が強いのもいれば、のんびりとしたのもいるんです。それに、はじめはすぐに逃げ回っていても、追いかけているうちに向こうも徐々に撮られることに慣れてきます。昆虫との付き合い方といいますか、お互いの呼吸次第ですね。楽しみながら撮っていますので、たいへんなことは何もありません。

――昆虫がいる場所を探したり、昆虫を見つけることが難しい気もしますが。

水上さん: 珍しい種類の昆虫を撮ろうとするなら、いろいろと情報収集が必要ですが、ふつうの昆虫なら身近な場所にたくさんいますよ。昆虫には膨大な種類があり、個体数も多いです。近くで撮ろうと思えば、そのへんの公園でも庭でも、いくらでも撮れると思います。ただ小さすぎるため、興味がなければそれに気が付かない人がほとんどです。例えばE-500で撮った作品のベニシジミは、どこにでもいる蝶ですが一円玉くらいの大きさしかありません。

――水上さんにとって昆虫写真の魅力は何でしょう?

水上さん: 日本だけでも撮りきれないくらいの種類の昆虫がいて、それぞれの色や形の美しさや、その生態に対する興味は尽きません。目を凝らして注意深く観察すればするほど、様々な発見があります。動物だったら例えばアフリカに行かなければ撮れないような生態写真を、昆虫ならごく身近な場所で撮れるんです。

――昆虫の学問的な価値と、写真としての面白さのどちらを重視していますか?

水上さん: 私の写真を見ていただく人は、昆虫に詳しい人ばかりではありません。むしろ昆虫そのものには興味のいない人のほうが多いでしょう。昆虫自体の珍しさよりも、身近な場所で撮った写真を見て、そこから何かを感じてもらえればうれしいし、そんな写真を撮りたいと思います。

 一般的に“自然”というと、自分の生活とは別の場所にあり、たまに旅行に行って自然に触れ合うというイメージがあるかもしれません。しかし、自分自身と自然とを分けて考えるのではなく、実際には自然は自分の足元から広がっている、そんなことを写真を撮りながら昆虫から教えられました。

 私自身、南の島や海外に行って珍しい種類の昆虫を撮ることもありますが、今はより日常的な場所で撮ることに目を向けています。特に山奥ではない首都圏で生活していますが、まだまだ撮りたい昆虫がたくさんいます。

photo 「夕陽とベニシジミ」――夕暮れ、眠りにつこうとするベニシジミ

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