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コラム
» 2006年08月07日 11時00分 公開

神々の失墜、崩壊するコピーワンス小寺信良(2/3 ページ)

[小寺信良,ITmedia]

 全体的に昨年末から活発化したコピーワンス緩和への動きは止まっていないが、今回の情報通信審議会の答申は、コピーワンスに代わってEPN方式で検討せよ、と具体的に一歩踏み込んだ点で、画期的だと言える。このような結果を招いたのは、そもそもコピーワンス導入の経緯が不透明な放送業界に対する不信感に端を発する。

 コピーワンスはARIBの運用規定であるTR-B14,15に記載されているが、このTRとはそもそも、「ただの技術資料」でしかない。ARIBの本業はARIB標準規格(STD)を策定することにあり、この策定には利用者や事業者など利害関係者からなる規格会議の総意を得なければならない。コピーワンスはこの総意を得ず、単なる資料としてねじ込まれているのである。

 工業的な標準規格であれば普通の人にはほとんど関係がないが、放送の運用という多大な人間に対して利益不利益を生じることが、単なる資料で決まっていいわけはない。民間でいろんなことを自主的に決めていくことは結構だが、さすがにここまで好き勝手にやられると、総務省もキレるわけである。

EPNとは何か

 ここで言われているEPNという方式について、もう一度おさらいしておこう。これは基本的にこれまで行なわれていた暗号化技術には変わりないのだが、その使い方が異なる。

 まず現在のデジタル放送がどうなっているかというと、電波に乗ったコンテンツはCOG(Copy One Generation、いわゆるコピーワンス)として暗号化されている。録画機はこのCOGコンテンツを、NMC(No More Copies、コピー不可)コンテンツとして記録する。コピーすなわち複製はできないわけであるから、別のメディアへは移動、つまりムーブとなるわけである。

 EPN方式では、放送局からの電波に乗ったコンテンツは、EPNによる暗号化で送信されてくる。録画機はこれをそのまま録画し、コピーする際もこのEPNによる暗号化のままでデジタルコピーできる。数には制限はない。ただEPNの暗号化を解くための鍵を、再生するデバイス側に持たせるというわけである。つまりコピー行為そのものを禁止するのではなく、違法入手したコンテンツの再生、言い換えれば出力を禁止するわけだ。

 これまでのデジタル放送では、HDDに録画したコンテンツをムーブしようとして失敗すると、HDDからは消えちゃうわメディアは再生できないわで、非常に危ない橋を渡っていたわけである。またポータブルプレーヤーで再生するためのコピーができなかったり、できたとしてもSD解像度以下に変換されたら、元のHDコンテンツは消さなければならなかった。EPN方式はこれらの不満点を解消する手段として、実際に機器を作る立場であるJEITAが提案したわけである。

 一方で放送局側は、事実上コピーフリーになれば権利者の理解が得られずコンテンツの調達が難しくなるとして、EPN方式に反対の意思を表明していた。またネットワークへの流出がEPNで防げるかということにも懐疑的だった。代わって放送局側が提案した案は、ハードディスク内にムーブ用のバックアップを保存することを許して、基本的には現状と同じムーブでお願い、というものであった。

 ムーブに失敗した場合は、もう一度だけバックアップからムーブすることが可能だが、バックアップを使ってムーブしてしまうと、バックアップ側は消える。また同解像度であるDVD用と、低解像度であるメモリーカード用にそれぞれバックアップを用意するというプランも持ち出してきた。これをやるには、現状の運用規定であるARIB TR-B14,15を改定しなければならないが、それをやってもいい、とまで言い出した。

 とは言え、元々ただの技術資料にすぎない規定など、改定することはたやすい。困るのは、それを基準に物を作っているメーカーで、それを実装するのは、エラく面倒である。1回の録画で2種類の解像度データを持たせたあげく、それぞれにバックアップを持たせるわけだ。当然データの取り扱いの手間が増えるだけで、メーカー側にメリットは何もない。一方消費者の立場から見てもこの方式は、結局ムーブ失敗を1回だけカバーするに過ぎず、今後現われるであろう様々な視聴パターンに対しての将来性が見えない。

 総務省としては、デジタル放送への完全移行が大命題である。思ったよりもデジタル放送への移行が進んでいないのは、デジタル放送が知られていないから、というのが去年までの論理であった。だが告知やキャンペーンをあれだけ行なっても、一向に促進される手応えがない。ムーブに失敗するとかも含めて、コンテンツの利便性がアナログよりも劣るのであれば、デジタル放送への移行は必要ないと考える消費者が増えてきていることに気付いたわけである。

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