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躍進するペンタックスの意欲作――「K10D」の開発者に聞く(前編)永山昌克インタビュー連載(3/3 ページ)

» 2006年10月30日 19時41分 公開
[永山昌克,ITmedia]
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ワンプッシュ操作のRAWボタンを搭載

――発色や露出の傾向はこれまでの製品と同じですか?

畳家氏: 絵作りの考え方は踏襲しています。ただ設定として異なるのは、2つの画像仕上げモードのデフォルトは、これまでは「鮮やか」モードでしたが、K10Dでは「ナチュラル」モードに変更しました。これはターゲットユーザーに応じた変更であり、ユーザー自身がアレンジできる領域がより広く、そもそも持っているポテンシャルをきっちり生かせる初期設定のモードといえます。「鮮やか」と「ナチュラル」のパラメータの作り方の傾向はこれまで通りですので、異なる2台を併用しても違和感はありません。

photo 撮影メニューからは、2つの画像仕上げモードの選択や、彩度/シャープネス/コントラストの調整などができる

――選択できる感度は、K100DではISO200〜3200でしたが、K10DではISO100〜1600へと1段低くなりました。これは高画素化の影響ですか? ISO3200の実現は困難ですか?

畳家氏: 感度はセンサーの出力に依存する部分が大きく、今回感度の数字が下がったのは、センサーの基本感度がISO100であるためです。そこから電気的に感度を高める段階数自体は実は同じです。開発過程でISO3200も検討しましたが、まだ我々の基準で世に出せるレベルではないという判断で、今回は見送りました。そういう意味では、600万画素クラスのほうが高感度に強いという表現になってしまいます。

――では、感度ISO1600の画質では、K10DとK100Dではどちらが上ですが?

畳家氏: 見るポイントによって一概には言えません。ノイズの出方や粒子の立ち具合と言う見方では、610万画素のK100Dのほうがノイズは少ないです。ただ解像感を生かすという意味では、1020万画素のポテンシャルがあるK10Dのほうが当然有利です。またK10Dの絵作りでは、無意味にノイズをつぶそうとはしていません。仮にノイズを消すようなフィルタリングを入れると全体的な解像感が落ちてしまいます。それでは1020万画素のメリットがありません。ノイズの有無だけにとらわれず、総合的な画質のレベルアップを意図しています。

 なおRAWモードで撮影していただき、同梱ソフト「PHOTO Laboratory 3.1」で現像すれば、「ランダムノイズ除去」というフィルターを適用できます。これを使うことで、ユーザーの狙いに応じたノイズ除去が可能になります。K10Dでは、カメラ内で最初からノイズ除去するよりも、素材としていいものをきっちり出すことを重視しました。

――RAWデータは従来と変わったのですか?

畳家氏: 今回新たに圧縮RAWに対応しました。RAWデータを圧縮することで、1020万画素でありながら従来と大差ないファイルサイズを実現しています。また、Adobe社が提唱する汎用性のあるRAWフォーマットのDNG形式をカメラ内で選べるようにしました。DNGへの対応は、海外市場から要望が大きかったといえます。

――新設したRAWボタンの狙いは?

畳家氏: これまでのユーザーの声をリサーチすると、JPEGで撮影する方が圧倒的に多いといえます。しかし、JPEGのみではなく、被写体や状況に応じてRAWに切り替えて撮る方も大勢います。例えば、家族のスナップはJPEGで撮り、すごくいい景色はRAWで撮る、といった使い分けです。その際、これまではメニューから画質設定をRAWに変更し、撮り終わったら再びJPEGに戻す手間がかかりました。うっかり戻すの忘れて、家族スナップまでRAWで撮ってしまうケースもあるかもしれません。

 それを解決する手段として、素早くRAW+JPEGモードに変更できる専用ボタンを設けました。撮影のリズムを損なうことなく、使い勝手を高めることができます。当社に限りませんが、一眼レフ機の開発者は一眼レフ機のヘビーユーザーでもあります。お客様の声に加え、我々自身がふだん使っている中で感じた不満点の改良するよう努めています。RAWボタンはそのひとつです。

photo 標準ズーム「DA 18-55mm F3.5-5.6AL」を装着。レンズの付け根部分にRAWボタンがある

AFのスピードアップと手ブレ補正の強化

――高画素化によって、ピント精度やブレ対策はよりシビアになると思います。AFや手ブレ補正に関して、K10Dでは従来とは違う対策を図っていますか?

畳家氏: まずピント精度に関しては、K100Dから基準は大きく変わっていません。もともとK100Dはピント精度が非常に高いカメラだと我々は考えています。さらにいえば、フィルムからデジタルに切り替わったタイミングで、フィルムの場合の許容錯乱円で判断した焦点深度ではなく、ディスプレイ上での等倍鑑賞に応じた基準でピント精度を高めるようにしています。

 K100Dよりも前の機種ではAFスピードが遅いという声が一部にありましたが、K100Dの段階でAFの機構や制御を大幅に見直し、ピント精度を保ったまま、レスポンスの向上を実現しています。そして、その高精度なAFをK10Dでも受け継ぎながら、スピードに関してはさらにワンランク上を達成できました。これは電源回りの改良が大きいといえます。

 手ブレ対策については、高画素化に合わせて補正の性能をさらに1段高めることが今回の開発テーマのひとつでした。そこで手ブレ補正のユニットを見直し、使用しているコイルやマグネットなどをすべてパワーアップさせました。その結果、ユニット全体が一回り大型化しましたが、きっちりと性能を高めることができました。公表している手ブレ補正の効果の表現としては、従来のK100Dではシャッター速度に換算して約2〜3.5段分でしたが、K10Dでは約2.5〜4段分になり、下限も上限もアップしています。

photo 左はK100D、右はK10Dの手ブレ補正ユニット。およそ一回り大型化している

――これまでの魅力だった小型軽量ボディがやや損なわれましたが、これ以上のコンパクト化は困難でしたか?

畳家氏: このK10Dのサイズと重量は、仕様が固まった開発の初期段階から決まっていました。手ブレ補正ユニットのほか、A/Dコンバーターや画像処理系の回路の規模が大きくなったり、電源回りの変更やボディの防塵防滴性を実現したりしたためです。

 特に日本市場では当社の小型軽量ボディに高評価をいただいていますので、当初ボディサイズに関する議論は少しありました。ただ欧米市場ではK10Dのサイズがちょうどいい、むしろ今までが小さすぎた、という声も挙がっています。また機種のランクの違いを考えれば、それなりの存在感も必要であろうと考え、このK10Dのこのサイズは問題ないと判断しています。


「後編」へ続く

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