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「Engadget」って何だ?小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年11月13日 05時35分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 その日筆者は、あるメーカーが開発中の技術に対するヒアリングに出席するため、アキバのUDXビルの中を指定された部屋に向かって歩いていた。すると向こうから、テンガロンハットにサングラス、でも体は着流しに雪駄という「それ誰と誰のアイコラだよ」的な男が歩いて来る。

 長年アキバを歩いていて、筆者もシロウトではない。こういうのと目を合わせるとロクな事にならないというのは経験上わかっているので、なるべく視線を合わせないようにすれ違ったのだが、くるりときびすを返してこちらに近づいてくる姿が、エレベーター脇のぴかぴかに磨き上げられたステンレスの壁に映っていた。

 考え得る限りの最悪のシナリオベスト20を瞬時に想定し、その対応をシミュレーションしていたところ、案外優しげな声で男はこういった。「あのー、もしかして小寺さんですか?」

 それが「Engadget Japanese」を主宰する「Ittousai」氏との、最初の出会いである。

Weblogの勝者、Engadget

 Engadget Japaneseは、PDAや携帯電話、PC周辺機器やミュージックプレーヤーといった、いわゆるガジェット好きなら一度はリンクをたどって訪れたことがあるサイトだろう。昨今ではDELLのバッテリ爆発・炎上事故を日本でいち早く掲載したのもここだったし、ウォークマンS700シリーズのリーク写真を掲載したのもここだった。

 ただこのサイト、基本的に「About」のような説明がなにもないままに存在するため、一体どういう素性のサイトなのかご存じない方も多いことだろう。もちろん筆者もその一人であった。そこでEngadget Japaneseを事実上運営しているIttousai氏に、Engadgetとは何かを伺った。

 「元々Engadget本家は米国の大手ブログサイトなんですけど、日本では僕が1年ぐらい一人でやってる個人サイトみたいなことになってます。ホントはちゃんと何人も人を入れてやんないといけないんですけど。だいたい僕がサボると更新されないってのは、本家の規模からすればあり得ないことなので(笑)」(Ittousai氏)

 日本では一部のマニア向けというか、変なもの&変な人大集合サイトのようなEngadget Japaneseだが、本家の米国Engadgetはガジェット系ブログメディアとして、盤石の地位を築いている。ブログ検索サービスとして知られる米Technoratiでは、被参照数1位。全米で1位ということは、おそらく世界的に見てもガジェット系サイトではナンバーワンだと見ていいだろう。

 元々本家Engadgetは、2004年に現在の代表であるPeter Rojas(ピーター・ロハス)がスタートさせた、ガジェット系専門のニュースブログである。当時米国ではBlogシステムを使って行なうジャーナリズムが急速に立ち上がっていった時期で、広告収益によってビジネスになるということが立証されつつあった。

 当時はWeblogs,Inc.という会社が運営する80近くのブログメディアの一つであったが、2004年、2005年とEngadgetがBest Tech Blogに選ばれるなど、Weblogs,Inc.の目玉として急成長した。そして2005年にAOLがEngadgetをWeblogs,Inc.ごと2500万ドルで買収、現在はAOL傘下の商用サイトになっている。

 Ittousai氏は、どういういきさつでEngadget Japaneseを引き受けることになったのだろう。

 「最初は米国Engadgetの1読者だったんですけど、そのうち日本語のサイトができて。最初のころは日本語を勉強して身につけた向こうのインターンの学生みたいなのがやってましたから、機械翻訳サイトだろうとずっと思われてたんです(笑)。日本版ができたとき何人か編集者が居たんですけど、これが知り合いだったのと、バックエンドとかサイトのデザインとか含めてこれじゃ世界のEngadgetとしてイカンだろというところがすごくあったので、いろいろ意見とか送ってたんですね。そしたらじゃあお前がやれ、ということになって」(Ittousai氏)

 現在Engadgetの世界展開は、スペイン、中国、日本。本家米国とあわせると4カ国語で展開している。経営は国によってそれぞれ事情が違い、国によって成功したり、誰かが私物化しておかしなサイトになってたり(日本)ということのようである。

 「前職というか今もそうなんですけど、サラリーマンのWebエンジニアみたいなものでした。ライティング自体は学生のころからアルバイトでずっとやってたんで、それの延長みたいな感じですけど。以前暇なときは、スラッシュドット・ジャパンに変な発明のサイトとかを見つけては投稿してたんですけど、その代わりにEngadgetに書いてるような感じです」(Ittousai氏)

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