2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米テュレーン大学に所属する研究者らが学術誌Physical Review Lettersで発表した論文「Role of Reconstruction in the Inertness of Gold toward Oxygen」は、金がいつまでも美しい輝きを保ち続ける理由について明らかにした研究報告だ。
これまで、金が錆びたり変色したりしないのは、単に化学的に酸素と結びつきにくい性質だからだと考えられてきた。しかし今回の研究により、金の表面にある原子が自然に配列を変え、酸素との反応を抑え込む保護パターンを作り出していることが分かった。
研究チームは、コンピュータシミュレーションを用いて、酸素分子が金の表面とどのように相互作用するかを詳しく調査した。その結果、表面の原子が正方形や長方形に並んだままであれば、酸素分子は容易に分解されて金と反応してしまうことが判明した。再配列が起きなければ、金は常温環境下で酸化が進んでいた可能性が高いという。
一方、実際の金の結晶でよく現れる2種類の表面では、原子が自ら並び替わって準六角形の構造へと変化する特性がある。六角形の構造は分解のハードルが非常に高く、酸素分子の分解が10億分の1から1兆分の1にまで抑制される。この原子レベルの強力な保護バリアこそが、金製品が何世紀にもわたって輝きを失わない秘密だった。
この発見は、金の変色の謎を解明しただけでなく、触媒の改良にもつながる可能性がある。金触媒はすでに一部の工業用酸化反応で使用されているが、酸素分子を分解する能力の低さが課題だった。研究チームは、表面の再配列を防いだり元に戻したりして金に酸素を分解させるという戦略を提案しており、従来の金属の組み合わせやナノ粒子化と合わせて、表面構造の操作が金触媒の性能を高める可能性を示している。
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