2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターなどに所属する研究者らが2025年11月に発表した論文「Unraveling the gastrointestinal tract’s response to alcohol binges: Neutrophil recruitment, neutrophil extracellular traps, and intestinal injury」は、短期間の大量飲酒(ビンジ飲酒)が腸の炎症を引き起こす新たなメカニズムを明らかにした研究報告だ。
過度なアルコール摂取は腸のバリアー機能を低下させ、腸内の細菌や毒素が血液中に漏れ出してしまう原因となる。特に胃に続く上部消化管はアルコールの影響を強く受ける部位だが、その初期段階でどのような炎症が起きているのかは十分に解明されていない。
そこで研究チームは、マウスに3日間続けて大量のアルコール(3.5 g/kg)を投与し、小腸(近位小腸・遠位小腸)や大腸が受けるダメージを観察した。
実験の結果、アルコールによるダメージは主に小腸の上部(近位小腸)に集中し、遠位小腸や大腸には顕著な変化が見られなかった。飲酒後、近位小腸には免疫細胞である好中球が異常に集まって活性化し、好中球細胞外トラップ(NETs)が過剰に形成されていた。また腸の表面にある絨毛が傷つき、血液中に毒素(エンドトキシン)が漏れ出していることが確認された。
好中球の集積と血中エンドトキシンは24時間後には正常化したものの、腸の絨毛の傷自体は残ったままであった。
さらに、アルコールによって活性酸素は発生していたものの、抗酸化物質(NAC)を与えても腸のダメージや好中球の活性化、毒素の漏れを防ぐことはできなかった。一方で、NETsの構造を分解する働きを持つDNaseを飲酒の1時間前に投与したマウスでは、好中球の集積・活性化が抑えられ、腸組織の損傷や血液中の毒素の量も減少していた。
これらの結果から、短期間の大量飲酒による小腸のダメージは、活性酸素の産生とは独立しており、体を守るはずの好中球がNETsを過剰に放出して自らの腸組織を傷つけてしまうことが原因である可能性が示唆された。
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