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排便の音を聞いて“下痢”かを判定するAI 精度98%で特定 YouTubeなどからトイレの音350件を学習Innovative Tech

» 2022年12月22日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米ジョージア工科大学に所属する研究者らが発表した論文「The feces thesis: Using machine learning to detect diarrhea」は、トイレに設置したセンサーで排便の音を録音し、下痢かどうかを判断する機械学習モデルを提案した研究報告である。コレラなどの腸に関する病気の早期発見に役立てたいという。

トイレに設置した下痢検知センサー

 コレラは、コレラ菌によって汚染された食物を口から食べることで胃で死滅しなかった菌が小腸に達し、定着、増殖して病態を引き起こす。一般的には数時間から1日以内の潜伏後、発熱はせず下痢を主症状として発症する。重症になると下痢に加え、嘔吐(おうと)やショックなどを発症する。

 コレラは毎年数百万人が感染し、約15万人が死亡している。コレラの予防は、医療関係者が下痢の症例を早期に発見することに頼っているのが現状である。

 この研究では、排せつ音から下痢を特定する手法により、コレラやその他腸の病気の早期発見を促進することを目指す。トイレに設置したセンサーの内蔵マイクが排せつ音を録音し、機械学習で音を分析して下痢の有無をランプで知らせる。

 音の分析では、まず排便の様子を伝える音をスペクトログラムという画像に変換する。音とスペクトログラムは、事象によって異なる特徴を持つ。例えば、排尿は一貫した音色を作り出し、排便は特異な音色を持つ。一方、下痢はよりランダムである。スペクトログラムの画像は、機械学習アルゴリズムに送られ、その特徴に基づいて各イベントを分類するように学習する。

 研究者らはこの技術を、YouTubeとサウンドデータベースSoundsnapからの音(標準的な排便、下痢、排尿、鼓腸を網羅した350件のトイレに関する音)を用い、学習とテストを行った。

 テストの結果、人の話し声などの背景ノイズを除去した場合は98%、背景ノイズを残した場合は96%の精度で、排せつ物を下痢性か非下痢性かに正しく分類できることが分かった。

 今後は排便の音だけでなく、排尿の音にも注目し、病気のシグナルとなりうる異常な変化を予測することも視野に入れた研究を進めていきたいという。

Source and Image Credits: Maia Gatlin, David S. Ancalle, Anthony Popa, Ashima Taneja Cade Tyler, David Meyer, and David L. Hu Alexis Noel. “The feces thesis: Using machine learning to detect diarrhea”, The Journal of the Acoustical Society of America 152, A50-A50 (2022) https://doi.org/10.1121/10.0015504



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