このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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カナダのビクトリア大学などに所属する研究者らは「Why Do Only Some Cohort Studies Find Health Benefits From Low-Volume Alcohol Use? A Systematic Review and Meta-Analysis of Study Characteristics That May Bias Mortality Risk Estimates」は、107件の研究を対象とした分析を実施し、アルコール消費と全死因死亡率の関連性を詳細に調査した研究報告である。
多くの研究が、少量のアルコール摂取が寿命を延ばす可能性があると主張している。適度に飲む人の方が全く飲まない人より健康だということだが、実際にはどんな量のアルコールも有害であることが明らかになってきている。この矛盾を調べるため、研究チームはアルコール摂取が特定の年齢での死亡リスクに与える影響を調査した107件の研究(合計で約480万人のデータを含む)をレビューした。
従来の多くの研究では、適度な飲酒が寿命を延ばす可能性があると主張してきた。これらの研究は、飲酒量と死亡リスクの関係が「J」字カーブを描くと示唆していた。つまり、少量の飲酒は非飲酒者と比べてリスクが若干低下し、その後飲酒量が増えるとリスクが急激に上昇するというものだった。しかし、今回の分析によると、これらの研究には重大な欠陥があることが判明した。
主な問題点は、多くの研究が一度も飲酒したことのない人と飲酒している人を比較していないことだ。代わりに、飲酒をやめた人とまだやめていない人を比較している。飲酒をやめた人や時々飲酒する人を非飲酒者グループに含めている場合が多いのだ。例えば、ある研究では、年間11回まで飲酒する人でも非飲酒者グループと定義していた。
特に、高齢になってから健康上の理由で飲酒をやめた人が非飲酒者グループに分類されるため、現在飲酒している人が相対的に健康に見えてしまう可能性がある。つまり「これまで全く飲まない人」をどのように定義するかが重要である。
レビューした107件の研究のうち、これらのバイアスに適切に対処していたのは6件だけだった。これらの研究は、若い人(55歳以下)を対象に、非飲酒者グループのバイアスを避けていた。これら6件の研究の分析結果では、飲酒が少ない人の死亡リスクは非飲酒者と比較して有意差がなかった。つまり、飲酒が少ない人は、リスクも少ないが明確な健康上の利益もないということである。
アルコールの影響を最も適切に評価する方法は、子供の頃からランダムに飲酒グループと非飲酒グループに分け、生涯にわたって健康状態と飲酒習慣を追跡調査することだが、倫理的な理由からそのような研究は実施できない。そのため、研究者は人々の飲酒習慣を聞き取り、より短期間で追跡調査を行わざるを得ないのが現状だ。
Source and Image Credits: Tim Stockwell, Jinhui Zhao, James M. Clay, Adam Sherk, Timothy Naimi.(2024)Moving Beyond Trench Warfare: The Need for Further Hypothesis Testing About Whether Observed Health Benefits From Alcohol Consumption Are Genuine. Journal of Studies on Alcohol and Drugs 85:1, 143-146.
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