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落ち葉を電池に変える技術 1枚の葉っぱで時計やLEDの駆動に成功Innovative Tech

» 2022年01月31日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 韓国のKAISTの研究チームが発表した「Green Flexible Graphene–Inorganic-Hybrid Micro-Supercapacitors Made of Fallen Leaves Enabled by Ultrafast Laser Pulses」は、自然の落ち葉を蓄電デバイスに変える手法だ。レーザーを葉っぱに照射する方法で蓄電デバイスを作成する。

葉っぱ型蓄電デバイスのイメージ図
1枚の葉上に寸法の異なる5つのFsLIG電極を作成した様子

 さまざまな蓄電デバイスの中でも、マイクロスーパーキャパシター(MSC)は、小型でありながら蓄えられるエネルギー量が高く、短時間での充電が可能であることなどから注目を集めている。

 MSCである電気二重層キャパシター(EDLC)の場合、電極材料の選択は性能を決定する重要な要素となるため、新しい電極材料が求められている。中でも薄くて柔軟な結合炭素原子シート「グラフェン」は、高い導電性を有しており、MSCの電極材料として有望視されている。

 先行研究で、フィルムの表面にCO2レーザービームを照射すると、フィルムの表層部をグラフェン層の3次元網目構造へ変換でき、導電パターンを作り出せることが知られている。これはレーザー誘起グラフェン(LIG)と呼ばれているのだが、この方法は主に生分解性のない合成ポリマーから製造するため、大量の電子機器廃棄物が発生する課題を残している。

 他方で、電子機器の消費量や使用量の増加、モバイル機器の進化に伴う買い替え時期の短さなどにより、廃棄処分される電池が増加している。この電池の回収やリサイクルには、安全面や環境面で多くの課題が残っている。

 一方で、地球上の森林からは大量の落ち葉が出る。落ち葉は、生分解性や再利用性に優れており、環境に優しい魅力的な素材といえる。しかし、落ち葉を有効活用せずに放置しておくと、その一部は火災や水質汚染の原因になる。

 これらの問題を一度に解決するため、研究では落ち葉を蓄電デバイスであるMSCに変える方法を提案する。この技術は、フェムト秒レーザーを葉の表面に直接照射することでフェムト秒レーザー誘起グラフェン(FsLIG)を作成する。さまざまな種類の葉の上に導電パターンをレーザーで書き込み、高い導電性を持つ3次元構造の多孔質グラフェンに仕上げる。

落ち葉にフェムト秒レーザーを照射することでMSCを作成する
種類が異なる葉に作成したFsLIGパターン。(a)イチョウの葉、(b)桜、(c)エゴノキ、(d)カエデ、(e)Nageia fleuryi

 この方法で作成した葉っぱ型蓄電デバイスは、合成ポリマー製の電極に比べてシート抵抗が低く、高い容量維持率(5万回の充放電後で約99%)を達成した。実験では、1枚の葉だけでLEDの発光や時計、温度計などに電力を供給し駆動できることを実証した。

(左)葉っぱ型蓄電デバイスでLEDを赤く発光させた様子、(右)置時計を駆動させている様子

Source and Image Credits: Le, Truong-Son Dinh, Lee, Yeong A., Nam, Han Ku, Jang, Kyu Yeon, Yang, Dongwook, Kim, Byunggi, Yim, Kanghoon, Kim, Seung-Woo, Yoon, Hana, and Kim, Young-Jin “Green Flexible Graphene–Inorganic-Hybrid Micro-Supercapacitors Made of Fallen Leaves Enabled by Ultrafast Laser Pulses” Advanced Functional Materials. https://doi.org/10.1002/adfm.202107768



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