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ポリ袋と同じ薄さの太陽電池、米スタンフォード大が開発 人間の皮膚にも装着可能Innovative Tech

» 2021年12月20日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米スタンフォード大学の研究チームが開発した「High-specific-power flexible transition metal dichalcogenide solar cells」は、軽量で薄く曲げられる太陽電池だ。これまでのパネル式と比べ、 厚さが6マイクロメートル未満(ポリ袋程度の厚さ)と薄い利点を持つ。それでいて、高いエネルギー変換効率(PCE、power conversion efficiency)を達成した。

厚さが6マイクロメートル未満の太陽電池

 製造コストが低く、エネルギー変換効率が妥当であるため、太陽電池の多くにはシリコン(市場の95%)が使われている。しかし、ウェアラブルデバイスや、航空宇宙、電気自動車など、柔軟性や軽量性が必要なアプリケーションでは重量や大きさの点で導入が難しい。

 この課題の糸口となったのが、今回採用した遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD、Transition metal dichalcogenides)と呼ばれる素材だ。TMDのこれまでの研究実験では、吸収した太陽光の2%程度しか電気に変えられていなかった。

 研究チームが開発したプロトタイプは、それを超える5.1%のエネルギー変換効率を達成。研究チームは、光学的および電気的最適化により、実質的に27%の効率を達成できると予想している。この数値は、シリコンや現在市販されている他の太陽光パネルに匹敵する。

デバイスの断面概略図

 これまでに開発されたどのTMD式太陽電池よりも100倍も大きな出力重量比を実現した。比出力(太陽電池の単位重量あたりの電力出力)を見ると、このプロトタイプは1グラムあたり4.4ワットで、他の薄膜素材と競合する数値だという。

 さらに、TMDは他の薄膜素材と異なり、有毒な化学物質を含まれておらず、生体適合性にも優れているため、人間の皮膚や組織と直接接触するウェアラブルアプリケーションにも使用できるという。

Source and Image Credits: Nassiri Nazif, K., Daus, A., Hong, J. et al. High-specific-power flexible transition metal dichalcogenide solar cells. Nat Commun 12, 7034 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-27195-7



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