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電波を注入し、人間を充電器化 タイピングや車の運転中にスマートウォッチなどを充電Innovative Tech

» 2021年12月06日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームが開発した「ShaZam: Charge-Free Wearable Devices via Intra-Body Power Transfer from Everyday Objects」は、キーボードに触ってタイピングした際に自動でスマートウォッチのバッテリーを充電する身体内電力伝送(Intra-Body Power Transfer: IBPT)を使ったユビキタス充電システムだ。自動車のハンドルを握った際に充電されるシナリオも構築した。

手首に装着したデバイスが、(a)キーボードのパームレスト、(b)ラップトップ、(c)自動車のハンドルとインタラクションしながら充電する

 ウェアラブルデバイスが普及しつつある昨今、充電方法には革新的な解決策がまだない。特に、日常生活において気が付かない内に充電可能な解決策が求められている。そのため、目立たずシームレスに充電できるワイヤレス電力伝送技術が過去10年間で新たな研究テーマとなっている。

 今回はこの課題に、「身体内電力伝送」という角度から挑戦する。これはユーザーが日常的に触れている物体間において、ウェアラブル機器を充電するために、人体を電力伝送の媒体として利用するというもの。

 具体的には、オフィスの机や椅子、車、ベッドなど、日常的にユーザーが長い時間触れるものに、小型で安価な電子部品を取り付けることで、RF(無線周波数)信号を人体に注入し、そのエネルギーをウェアラブル機器が体のさまざまな部位で受信する。

 身体内電力伝送の主な技術的課題は、電源回路の順方向と戻りの経路を人体上に確保すること。人体は導電性材料の塊であり、分離した2つの信号経路を明確に定義できない。この解決法として研究チームは、「容量結合方式」を採用する。

 この方式では、銅電極を介してRF信号を体組織に注入して順方向の電気経路を構築、一方で近距離場の容量結合を利用して信号の戻り経路を確立する。人間の皮膚が銅電極に触れた際に回路を形成する仕組みだ。

容量結合方式の概念図

 このアプローチの有効性を評価するため、手首に装着したデバイス(スマートウォッチやフィットネストラッカーなど)を、キーボードのパームレスト(手首用クッション)、ラップトップ、自動車のハンドルという3つの異なる物体とインタラクションしながら充電するシナリオを構築し実験した。

 キーボードやラップトップはタイピングの姿勢、ハンドルは握って運転の姿勢に入った時に、自動で充電できるように銅電極を配置した。

各電極の配置場所
キーボードのパームレスト、ラップトップ、自動車のハンドルに手を接続させてテストしている様子

 実験の結果、手首に装着したデバイスのバッテリーを充電するために、およそ0.5mW-1mWの直流電力の転送に成功し、その有効性を示した。

Source and Image Credits: Noor Mohammed, Rui Wang, Robert W. Jackson, Yeonsik Noh, Jeremy Gummeson, and Sunghoon Ivan Lee. 2021. ShaZam: Charge-Free Wearable Devices via Intra-Body Power Transfer from Everyday Objects. Proc. ACM Interact. Mob. Wearable Ubiquitous Technol. 5, 2, Article 75 (June 2021), 25 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3463505

【修正履歴:2021年12月6日 午前11時5分 タイトルを一部修正しました。】

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