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犬から人へ電話をかけられる「DogPhone」 愛犬は飼い主にどのくらい着信を入れるか検証Innovative Tech

» 2021年11月30日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 スコットランドのグラスゴー大学と、フィンランドのアールト大学の研究チームが開発した「Forming the Dog Internet: Prototyping a Dog-to-Human Video Call Device」(DogPhone)は、犬から人のスマートフォンへビデオ通話をかけられるボール型IoTデバイスだ。ボール型のデバイスをくわえて動かすことで、スクリーン周辺で音が鳴り、電話先の飼い主が応答するとそのスクリーンに顔が表示され、音で近づいてきた犬と対話できる。

ビデオ通話がかけられるボール型デバイスをくわえて、飼い主と通話している様子

 人が犬を遠隔で監視するデバイスは一般的に普及しているが、犬がコンピュータに対して権限を持っていることはほとんどなく、犬の自発的な行動から人へ通信し遠隔でインタラクションするデバイスも少ない。今回は、犬用おもちゃを使い、犬側から遠隔にいる人へビデオ通話をかけられるIoTデバイスを提案する。

 プロトタイプを作成するにあたり、犬が操作するインタフェースは、犬にとって日常的で直感的な動作である、玩具をくわえる行為を採用した。通話したくないときも触って遊ぶ玩具では、不要なコールが送信されるため、日頃遊ばないけど、くわえて運ぶものを選ばなければならない。これらを踏まえた結果、柔らかいボールが最適と判断した。

さまざまな犬の玩具で試した

 ボールには、センサーやマイコン、バッテリーを搭載。センサーは、加速度計や磁力計、ジャイロスコープのデータを組み合わせて、デバイスの向きを3軸で検出する。検出した動きは、近くのPCに無線で転送する。スクリーンを家の中の任意の場所に固定し、通話は音だけでなく、相手の顔が見える映像を映すことにした。

ボールの中にはセンサーやマイコン、バッテリーなどを組み込んだ

 犬がボールをくわえて任意の方向に動かすと、スクリーン付近から音がなり、その音に反応してスクリーン前に近寄ってくることを想定。遠隔にいる人側では、犬がボールをくわえた際に電話が鳴る。通話を終了するタイミングは人が決めるようにした。

 このシステムは、逆に人から犬へのビデオ通話も可能にしている。人が遠隔から電話をかけると、犬側のスクリーン付近から音がなり、犬はボールを任意の方向に動かすことで応答を選択できる。

 実験は、飼い主である論文の筆者(30歳)と、生後8週間から同棲している犬(9歳)のラブラドールで行った。他に動物はおらず、人はフルタイムで外で働いているため、犬は長時間の留守番(月曜から金曜まで、平均して1日7時間)を余儀なくされている。

実験時の飼い主と犬

 実験を始める前に、犬には簡単にシステムの使い方をレクチャーした。また飼い主は犬がどのような動きをするのかを、室内カメラで観察、その様子を記録した。結果、最初の2日間で犬からの電話は合計18回、平均1分8秒の通話があった。

 スクリーンの前にじっと止まったり、違うお気に入りの玩具をスクリーン前に持ってきたりなどをした。お気に入りの玩具を飼い主に持ってくるのは日常でもよくある行為のため、スクリーン越しに筆者を認識していることを示唆した。

 ただ、かかってくる本数が多いと感じ、ボールの動きが大きくないと電話をかけられない設定に変更した。その結果、7日間で合計2回の通話しかなかった。人側からかけてみたが、犬は電話に出なかった。最後に、最初と2回目の中間の動きで電話をかけられるように設定した結果、7日間で合計35回(1日平均5回)の通話があった。

 犬はスクリーン越しに見える飼い主に興味を持ち、スクリーンに近づいたり、耳を立てて音を聞いたりしていた。その様子を見て飼い主は、犬と対面で会話するだけでなく、レストランなど行ったことがない周囲の環境も見せてあげることにした。犬は興味を持った行動をとっていたことから、行ったことがない環境と犬をつなぐ効果もあったかもしれないという。

 一方で、犬がボールをくわえて動かしたから電話がかかったのではなく、座ったときや移動した際に、偶然ボールに触れたことでかかったケースがほとんどだった。今後は、プロのトレーナーのもと、システムの操作を教えたいという。

Source and Image Credits: Ilyena Hirskyj-Douglas, Roosa Piitulainen, and Andrés Lucero. 2021. Forming the Dog Internet: Prototyping a Dog-to-Human Video Call Device. Proc. ACM Hum.-Comput. Interact. 5, ISS, Article 494 (November 2021), 20 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3488539



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