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美しい肌の色にこだわりました――「FinePix S5 Pro」開発者インタビュー永山昌克インタビュー連載(2/3 ページ)

» 2007年02月01日 13時46分 公開
[永山昌克,ITmedia]

RAW撮影よりもJPEG撮影を重視

――カメラの性能の中でも特に絵の違い、機種ごとに異なる絵の特徴や良し悪しにこだわるユーザーをターゲットにしているということですか?

牧岡氏: 私たちのカメラはRAWではなくJPEGで撮り、JPEGの絵を使っていただきたいと考えて作っています。枚数が少ない場合はRAWで一球入魂的な撮り方をするのもいいかもしれません。しかし、特にデジタルの時代になり、今やショット数がどんどん増えています。例えば街の営業写真館では、フィルムからデジタルに移行し、RAW現像のために夜寝る時間がなくなったという話も聞きます。しかも最近の営業写真では、スタジオでの1枚撮りだけでなく、屋外でのロケーション撮影などで様々な表情を撮り、商品のバリエーションを増やす傾向があります。それを全部RAW現像していたら仕事として成り立たない可能性があります。

 だからこそ完成度の高いJPEGの絵を出すことにこだわり続け、今回のFinePix S5 Proでは特にそこに力を注ぎました。後処理がほとんど要らない、たとえPhotoshopなどで修正する場合も最小限で済むような絵作りにしています。

 もちろん、RAWがまったく不要とは言いません。FinePix S5 ProではRAW記録もRAW+JPEG記録もできます。コマーシャルの分野などで、後からレタッチや合成をする前提ではRAWのほうが向いているケースもあるでしょう。また、通常はJPEGで問題はありませんが、たまに失敗をするかもしれない。そんなときにRAWを同時記録しておけば、後からの修正がしやすい。私たちはRAWの位置付けをそんな風に考えています。

――そのJPEGへのこだわりのひとつがフィルムシミュレーションモードですね。

牧岡氏: はい。これまでは屋外での風景用とスタジオでの人物用の2つのモードを載せていましたが、今回は人物用のモードをさらに細かいシチュエーション別に4つに分けて搭載しました。例えば、従来の「F1モード」は基本的にはスタジオ撮影を想定していますので、そのまま屋外で使用すると、空や植物の色などがくすんだ印象になる場合があります。そこで新搭載の「F1bモード」では、人肌の再現はそのままで、それ以外の空色や赤い色などがより美しく発色するようにしています。

 また最近の営業写真では、人物の表情やポーズの幅を広げるために、照明比をできるだけフラットにしてどんなに構図にも対応できるようにする傾向があります。ただしフラットな照明では味気のない表現になりがちです。そこで「F1cモード」では、たとえフラットな照明比でも見栄えよく再現できるような絵にしています。スタジオだけでなく曇天の屋外でも有効なモードです。

 一方「F1aモード」は、オレンジや茶色の再現を若干強めたことで、肌色の再現がF1モードに比べてわずかに異なります。特に若い方やヨーロッパでの嗜好に合わせた絵であり、好みの違いに応じて使い分けていただけます。

――広ダイナミックレンジが売りになっていますが、その狙いは?

牧岡氏: ふつうに撮ると白く飛んだり、暗くつぶれてしまう明暗差が大きいシーンなどでは広ダイナミックレンジが役立ちます。FinePix S5 Proでは、これまで以上に階調の再現力を高めたほか、ユーザー自身がダイナミックレンジを細かく設定できるようにしました。

 またもうひとつ、広ダイナミックレンジを実現する上で私たちが特に気を付けているのは、耐性の高い写真が撮れることです。例えば、ダイナミックレンジ400のモードで同じ被写体を段階的に露出を変えながら撮ったとします。その一連のカットを見比べていただければ分かりますが、露出が変わっても、どの部分を見ても色や調子が崩れていません。広いダイナミックレンジの全域に渡って色や調子が一定であることを重視しているからです。

――撮像素子や処理エンジンは何が変わったのですか?

牧岡氏: 受光面積が大きく感度が高いS画素と、受光面積が小さくダイナミックレンジを拡大するR画素で構成され、その両者をミックスさせる基本原理はこれまでと変わりません。ただし従来機では、2つの成分を混合させるつながりがまだ十分でないという指摘もありました。今回はトーンジャンプやバンディングが従来よりも生じないように、信号処理のエンジンを改善しました。

 撮像素子については、ISO3200でも撮れるように高感度側の性能を高めました。何かが大きく変わったのではなく、例えば電源や処理プロセスなどひとつひとつでは小さな改善にしかならないものを積み重ねたことで、結果的に高感度画質が一段と向上しました。ISO3200で撮れるカメラはほかにありますが、写真表現の幅を広げるには必要なものです。一例として天体写真の分野では、星と風景の両方を同時に収める撮り方がありますが、感度が低い場合は星が流れてしまうし、星に合わせてカメラを動かすと風景が写りません。その両方を静止して撮れるのはISO3200ならではの表現といえます。

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