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「冷房は28℃」に関する1つの疑問+D Voice

» 2007年08月17日 21時27分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 今回の質問は「夏真っ盛り、自宅のエアコン設定温度は?」。結果は、最近のエコ/省エネへの関心の高まりを反映してか、「クールビズ」の推奨設定にもなっている「28℃」以上が合わせて計3割を超えた。先日、明治安田生命が発表した「夏に関するアンケート調査」でも同様の数字が出ており、エコ意識が着実に浸透している様子が伺える。

 東京電力のWebサイトによると、冷房の設定を1℃上げる(27℃から28℃に変更)と、CO2は半年間で約11キログラム、電気代は670円節約できるという。環境によくて、しかも電気代が抑えられる。ちょっとした我慢で、すごく良いことをした感じになるが、こうした数字は冷静に受け取る必要もありそうだ。数字の根拠を調べていくうちに、なにやら“ツッコミどころ”が多いことに気がついたのである。

3.5カ月の冷房生活

 東電に限らず、CO2削減効果や電気代節約の根拠として挙げられることが多いのが、財団法人・省エネルギーセンターが発行している「家庭の省エネ大辞典」だ。同センターでは、実際に販売されている機器の中から、平均的なスペックを持つものを選び出し、実験を行って省エネ効果を測る作業を行っている。

 エアコンの場合は、一般的な2.2kW(6畳用)で平均的な効率を持つのものを使用し(メーカーや機種は非公開)、外気温が31℃のときに設定温度を27度および28度として1時間あたりの消費電力量を測定・比較する。算出した数値(省エネ効果)に一日あたりの使用時間と使用日数をかけると、年間のエネルギー削減量が算出できるという寸法だ。2004年に実施された最新の検証結果と計算式は以下の通り。

原単位(T) 30.0Wh/h
使用日数 112日
使用時間 9h/日
光熱費の単価 22円/kWh
計算式 T×112日(夏期)×9時間(1日の使用時間)×22円/kWh=700円
出典:財団法人・省エネルギーセンター

 しかし、オフィスの空調ならともかく、一般の家庭で年間112日(約3.5カ月)も冷房を使うだろうか?

 使用日数のデータには、社団法人・日本冷凍空調工業会が作成した「ルームエアコンディショナの期間消費電力量算出基準」(JRA4046)を使用している。JRA4046は、家電メーカーが新製品の年間消費電力などを算出する際に使うもの。基準に採用するだけの妥当性は有しているように思えるが、内容を読むと疑問はより大きくなった。

 というのも、JRA4046の基準では「東京地域を想定」して「外気温度が24℃以上となる6月2日〜9月21日までの3.6か月間」を冷房期間と規定しているのだ。真夏日でも「28℃設定」を心がけるような省エネ意識の高い家庭が、気温24℃の日にエアコンを動かすとは思えないし、そもそも実験の条件は「気温31℃」だったはずである。

 東京の場合、一日の最高気温が30℃以上になる「真夏日」は、年平均45.6日(1971〜2000年のデータ)、最高気温が25℃以上の「夏日」でも106.1日だ。年によって猛暑や冷夏などさまざまだが、仮に30℃以上の日だけエアコンを動かす家庭なら、CO2削減効果はデータの3分の1。逆にいえば、冒頭の“CO2の年間削減量”は、6月2日から9月21日まで112日間もの連続真夏日(!)で、エアコンを毎日9時間運転しなければ出てこないことになる。かなり特殊な夏といえよう。

 地球温暖化対策でエコ機運を盛り上げることに反対はしないし、むしろ積極的に応援したいと思う。たとえ実際は3分の1の効果だったとしても、やらないよりは遙かにマシだ。ただ、エコロジーを訴えるため――あるいはCO2削減の成果をアピールするために省エネ効果がオーバーに喧伝されているとしたら……暑いのを我慢して「28℃設定」を心がけている人たちは釈然としない気分になるのではないか?

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