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薄型テレビの能力を引き出す「リビングモード」本田雅一のTV Style

» 2007年11月02日 17時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回は、部屋の明るさに応じてブライトネスやコントラストなどを調整する手順を簡単に紹介した。この手の調整で重要なのは、自分の感性を信じることだ。眩しいと思うならば暗くすればいいし、暗部階調の見通しが悪いと感じれば、ガンマカーブの設定を変更してみればいい。色の濃度に関しても同じだ。

 環境に合わせて画質を微調整することで、かなり異なる見え方がしてくる場合もあるはず。もっとも、もう一方の考え方としては、部屋の環境をテレビに合わせて変えてしまうというのも、よりハードルは高くなるがおすすめだ。

 たとえば、全体に暗めの落ち着いたリビング環境を構築しているなら、テレビを設定している背後の壁に、軽く間接照明を当ててやるとテレビ画面が見やすくなる。逆に明るすぎるリビングや、照明の映り込みが気になる配置なら、照明の位置や高さ、あるいはそもそもの設置場所を再検討してみるのもいいかもしれない。

 照明とディスプレイは、とても相関関係が高いので、購入時に力のある販売店、インストーラに相談し、彼らのサービスを利用してみるというのも、一時的な出費にはなっても長い目で見ればプラス面の方が大きいと思う。

 さて、そうは言っても環境をテレビのために整えたり、画質の微調整なんて面倒でやりたくないといった不満の声はあるだろう。個人的には前述したように、テレビの画質はテレビが置かれる環境との相関性が高いため、自分で微調整や視聴環境対策を行うか、あるいは専門家に任せるのがベストだと思う。が、それ以外の方法もメーカーに模索していって欲しい。

 そんなわけで、今回は少し先の話。環境に応じてテレビが自動的に画質を調整してくれる機能について話をしたい。これは昨年ぐらいから、筆者自身がメーカーの技術者にお願いしていることでもある。

 画質調整というのは、視聴環境が同じであれば、コンテンツの内容に応じて大きく変える必要はない。しかし、コンテンツの種類によっては変えた方がいい場合もある。たとえばDVDやBD、HD DVDなどのパッケージ化された作品の場合、基準となる規格に合わせた業務用のモニターで色再現や明暗の描き分けを調整している。このため、基本的にテレビ側の設定をいちいち変更する必要はない。何しろ、映像が作られているターゲットのディスプレイ特性は1種類なのだ。これほどシンプルなものはない。

 しかし、時間をかけて制作されているパッケージ製品とは異なり、放送の場合は、そこまで厳密に調整しながら放送を行っているわけではないし、絵作りのポリシーも異なるために映像設定も変更した方がいい(このあたりは前々回にも触れた)。このため、通常のテレビ番組は標準やスタンダード(あるいはそれに類する)画質モード、DVDなどプレミアム映像を見るために映画、シネマ、シアターといった名称の画質モードを使い分けるわけだ。

 これに加えて環境に合わせて微調整を……というのが前回までの流れだったわけだが、環境というのは逐一変化するもの。加えて画質モードをいちいち切り替えるのは面倒くさい。そこで現在、一部メーカーが取り組もうとしているのが、適応的に自動画質調整を行う技術だ。

パイオニア「KURO」の「リビングモード」

 その急先鋒として実用化されているのが、パイオニア「KURO」シリーズに搭載されている「リビングモード」だ。KUROのリビングモードは以前にも簡単に触れたことがあるが、リビングモードにおいてパイオニアは、単純そうに見えてかなり難しいことをやろうとしている。リビングモードは、おおまかには以下のように動作する。

  • 表示する映像の内容を分析・分類する
  • 番組表情報を参照できる場合は、それを参照し分析結果を確認
  • 分析結果と照度センサーの情報から、画質設定を“少しずつズラす”

 1コマずつ分析しつつ、常に調整値を動かしているところが大きなポイント。たとえば映画だと判断されると、ほぼ映画モードに設定した場合と同じ調整値まで自動的に動くが、コマーシャルに入ったり、チャンネルを切り替えると「スーッ」と調整値が動いていく。

 またスポーツ放送を意識してメリハリ感を出していても、試合が終了してインタビューのシーンになると、今度は人肌を意識した画質へと境目なく少しずつ変化していくのだ。見た目にも変化しているのはよくわかるが、映画の中ではさほど変化はない(2-3パターンなど映画特有の映像パターンを判別しているためだろう)。

コンテンツ 明るくなると…… 暗くなると……
映画 ・スタンダードモードライク ・色温度を下げる
・明るさ感、色合いを変える
ライブ ・黒情報をカットオフ
・それ以外は鮮やかに
・ピークを絞って黒の情報を出す
・映画ほどは黒を沈めない
「リビングモード」の主な動作例(出展はパイオニア)
photo 「CEATEC JAPAN 2007」の1コマ。リビングモードの動作デモンストレーションも行われていた

 最初に見た時は、なかなかの完成度に思わず「こうした機能が必要なんだ」と声に出してしまった。全く不満がないわけではないが、最大限のパフォーマンスを発揮するにはユーザーの努力も不可欠なテレビという商材にあって、非常に重要かつ有効な機能であることは言うまでもない。

 実際にこうした機能を採用するためには、ディスプレイの特性がリニア(反応が素直)でなければならない。画質設定が連続可変しても、不自然な階調が出てしまったり、微妙な色調が表現できないといった可能性もあるからだ。パイオニアは、よく思い切ってこの機能を搭載したものだと思う。しかも出荷時設定になっているため、ユーザーはとりあえず電源を入れるだけで、その場に合わせた画質になる。

 とはいえ、まだまだ改良の余地はある。

 まずセンサー類は照度センサー1カ所だけで本当にいいのだろうか? 複数箇所で照度を計測したり、ユーザーの方向をセンサーで検出した上で、テレビを見ている人いる場所の明るさを計測する、あるいはRGBセンサーで部屋の色温度を計測すれば何かできないだろうか。まるで映像機器のプロフェッショナルが、その場で調整してくれるように、インテリジェンスに最適な画質を提供するモードがあれば、テレビの使いこなしはとてもシンプルになる。

 ユーザーの好みに応じて、適応調整の味付けを変化させることも、将来的には考えてほしい。たとえば「ノイズ感」「精細感」「色の乗り」といった、感覚的なパラメータをいくつかの軸で設定しておくと、すべてが連動して自動設定してくれるというのはどうだろうか。

 知識がなければ最適な状態で使えないなんてことは、もう数年後にはなくなっていてほしいものだ。

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