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CEATECで見つけた3つの次世代トレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/5 ページ)

» 2007年11月12日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
photo KUROを実際に試聴できる「KURO THEATER」も人気だった

 「フルHDならばよい」のではなく、絵の良さを左右するのはコントラストのレンジなのです。人間の感覚に大きく訴えるのは、コントラストなのです。パイオニアのプラズマテレビ「KURO」の画質が高い評価を得ているのは、KUROが2万:1のコントラストを持っているからです。XEL-1は画素数こそ少ないですが、フルHDに匹敵する映像を作り出していると言えます。

 また、白ピークが高いのも画質に大きく貢献しています。これはパネルの特性を出すと言うよりも、自発光ならではの魅力をいかに引き出すかという観点から絵作りを行った結果です。漆黒の中でビルの灯りが灯るようなシーンでは、場の空気感をしっかりと伝えてきます。これも有機ELならでは、ですね。

 この有機ELテレビをCEATEC後、仔細にチェックする機会がありました。映し出された絵を観て驚いたのは、高精細感、奥行感が生み出す、異様なまでの臨場感です。例えばBD-ROM「オペラ座の怪人」でのクリスティーヌの肌のテカリや瑞々しさ、きらめき感、そしてシャドウとハイライトの対比の表現。彼女の大きな瞳の奥にあるキラっとした光の濃密さ。この作品は、数えきれないくらい見ていますが、これほどのものは初めての体験でした。BSデジタルのドキュメンタリーなど放送番組を観ていても、テレビの後ろ側に現実があり、画面という窓からのぞいているのではないか……という錯覚を起こすほどの驚異的な臨場感がありました。

 自発光デバイスという点ではエフ・イー・テクノロジーズが240Hz駆動のFED(nano-Spindt Field Emission Display)を展示していました。高速駆動化は動画対策と思われがちですが、医療などプロフェッショナル用途向けにより精細な映像を出すことを目的としています。現在のシステムではまだ周波数が低く、カメラの動きが映像にボケとして映ってしまうので、それに対処するためです。

 FEDとXEL-1の有機ELではまったく絵が違うことにも注意しなくてはなりません。XEL-1は液晶が自発光ならばこうなるだろうという押し出し感やシャープネスの高い映像になりますが、FEDは非常に滑らかで暖かく、グラデーションやキメが細やかです。かつてCRTが備えていた資質を現在的な感じにした絵と言えます。

 XEL-1の映像エンジンは基本的にBRAVIAと同じものなので、絵の調子がそうなってしまっているのです。有機ELは液晶を追従する存在ではなく、自発光ならではの絵作りを行っていけるはずなので、液晶的なパッキリ映像ではなく、FEDのような情緒的な絵を得意とする製品が登場する可能性もあります。次世代の自発光ディスプレイは、絵作りの指針次第で幅を持たせられるという印象ですね。

液晶の改善

――今回のCEATECでは、さらなる薄型化や画質改良など、液晶の改善に関する展示も目につきましたね。

麻倉氏: 私はXEL-1の発表会である質問をしました。「非常に素晴らしいデバイスですが、これはソニーにとって液晶に取って代わるものとなるのでしょうか」と。井原氏(ソニー 取締役 代表執行役 副社長の井原勝美氏)は「大型化を含めたさまざまな可能性を追求するが、軸足はあくまでも液晶」と返答しました。この液晶の改善に関する各種の展示も、会場で目につきましたね。

photo 日立製作所の32V型で19ミリという薄型液晶

 まず気になったのは、液晶を主体とした展示を行った日立製作所です。「従来の枠を超えた液晶」にチャレンジしたいのではという強い思いを感じましたね。そのひとつの象徴が、2009年の量産を目指すという32V型で19ミリという薄型液晶です。シャープが8月に20ミリの次世代液晶を発表して他社を突き放すと思いきや、日立製作所も追従してきた訳で、薄さ競争が加速してきましたね。

 薄さ競争はひとえに有機EL対策です。まもなく厚さ10センチ程度では薄型と呼べなくなる時代になるでしょう。従来と同じCCFL蛍光管を使いながらも光拡散技術を利用すれば、20ミリ程度まで薄くできることは実証されていますし、バックライトにLEDを使えばさらに薄くできます。

 今回垣間見えた薄型化は、単なる薄型テレビから壁掛けテレビへの進化の一端でもあります。超薄型化されたテレビはチューナーが外付けにならざるを得なくなるので、ワイヤリングも問題として浮上するはずです。ワイヤレスHDMIの本格登場が待たれますね。

 また、より薄くなることで設置場所が部屋のカドから壁面になれば、液晶の方式による視野角の差も大きく露見することになるでしょう。横からの視聴に強いIPS方式が見なされるかも知れません。

 薄型化は壁掛けの実現や壁への埋め込みも可能としますが、シャープの提案する「せり出し」や「借景」といった、インテリアがテレビを素材のひとつとして取り込むという流れも今後は加速するでしょう。CRTから液晶/プラズマへの進化も、インテリアへの大きく貢献しましたが、さらに薄くなればインテリアとの親和性はさらに高くなるでしょう。

photo シャープが超薄型液晶で提案する「借景」

――画質改善に関する技術や動向についてはいかがでしょうか。

麻倉氏: 技術トレンドで言えば一昨年はフルHD化、去年は倍速化でしたが、今年は部分輝度制御という考え方、方式が顕著になってきたのが印象的です。そのポイントは液晶のバックライトを部分部分ごとに制御することで、同一画面内で白黒のコントラストを高めるという考え方です。

 米Dolby Laboratoriesの「ドルビービジョン」は、LEDバックライトの制御でハイコントラストと階調表現の向上を実現させ、同時に液晶制御も同時に行うことで画質の向上を提案しています。いわば、LEDの輝度制御にプラスして液晶を画素単位でガンマコントロールを行う「合わせ技」で液晶のコントラスを従来方式では到達できないところまで押し上げています。

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