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イマドキのテレビ、広色域技術の秘密小寺信良(2/3 ページ)

» 2007年11月19日 08時40分 公開
[小寺信良,ITmedia]

絵作りとしての広色域

 話をテレビに戻そう。現実世界にない色まで定義できたとしても、実際に表示されるのは現実世界に存在する色であり、実際にパネル自体も、従来のブラウン管や冷陰極管に比べて広い色度点を持つことは事実である。

 ビデオカメラのxvYCC(x.v.Color)モードで撮影したものは、同じ規格でカラーマッチングされたxvYCC対応テレビでうまく表示される。ビデオカメラとテレビをHDMIで接続した場合は、x.v.ColorがONであるというフラグが認識できるので、テレビは自動的にxvYCCモードとなり、カラーマッチングされるというわけだ。

 では逆に従来の映像信号では、広色域の効果は得られないのだろうか。実はそのあたりが、各メーカーの絵作りの問題になってくる。

 RGBそれぞれの色度点が広くなったわけだから、そのまま従来の信号を突っ込んでやると、そのまま色域が拡大されて表示されることになる。一見鮮やかになっていいことのように思えるが、実際はそうはうまくいかない。

 例えば肌色のようなものは、ある意味普遍的な美しさが求められる色だ。こういうものが色鮮やかになってしまうと、赤っぽい肌はより真っ赤に、黄色っぽい肌はより真っ黄色に表示されてしまう。

 例えばタングステン光のもとで撮影された人物は、光源の色温度が低いために、ややアンバーめの肌色で撮影される。これを広色域のパネルにそのまま突っ込んでやると、それがより濃く表示されるので、酔っぱらいのような真っ赤な顔に表示されてしまう。単純に拡大するのは、いいことだけではないのだ。

 そこで各テレビでは、極力もともとの映像規格、例えばテレビであればNTSCやBT.709といった規格範囲に入るように、信号処理で押さえていく。パネル自体が勝手に広色域方向に表示しようとするのを、逆方向に引っ張ってやるわけだ。

 だがそうなってしまうと、せっかくの広色域パネルが無駄ということになる。そこで中間色ではなく、RGBの原色に近い飛び抜けた色がポーンと来たときだけ、規格内に引っ張るのをやめて、その色だけを抽出して広色域で表示するようにしている。

 したがって、肌の色は普通に、でも手に持ったワインの赤だけは深く濃く、という表現になるわけだ。これは記憶色の表現に近い考え方である。つまり原色に近い色は忠実に再現するよりも、もっと濃く表現した方が満足度が高くなるわけである。ただやり過ぎると、なんでもかんでもべったりした赤黒い赤になったりするので、そのあたりが同じ赤でも微妙な違いが表示できるかというのは、アルゴリズムの作り方に左右されることになる。

 また中間色も、何でもかんでもあっさりした色がいいとは限らない。例えば黄色などは、これまではGとRの色度点が狭かった故に、テレビでは表現できなかった範囲が意外に大きい。これなどはむしろ、広色域パネルの力を利用して、きっちり出せるようにしたいところだ。

 だが黄色の領域というのは、特に日本人の肌色と被る。板壁バックに人物がいたりすると、ヒストグラムだけ見ていたら、どこが木の板でどこが顔なのかわからない。こういう解析は、動きやパターン認識などを利用して、人肌を検出していく技術が必要になってくる。

 テレビの画像処理は、色域が広がったことでものすごく大変になっていく。映像解析技術に長けたメーカーだけが生き残っていく、茨の道なのである。

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