ITmedia NEWS >

ビクター「LH805」で観る'84年のナスターシャ・キンスキー山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」VOL.2(2/2 ページ)

» 2007年11月21日 11時09分 公開
[山本浩司,ITmedia]
前のページへ 1|2       

 本機でまず興味深いのは、視聴環境(部屋の明るさ)と映像コンテンツに合わせて最適な画質を自動設定してくれる「明/暗ボタン」がリモコンに設けられていることだろう。熱心なAVファンを除けば、一般にテレビの画質調整機能が使われるケースは少ない。実際、リモコンで深い階層に入っていかないと画質調整できない製品が今なお多いが、本機はワンタッチ・ボタンで、簡単に目的に適った画質を得ることができる。

 お日様マークが出る「明」ポジションで用意されたモードは「ダイナミック」「テレビ」「シネマ」。お月さまマークの「暗」ポジションのそれは「シアターウォーム」「シアタークール」である。

photophoto 「明/暗ボタン」操作による画質&音質モードの違い(左)とGUI(右)

 「ダイナミック」は、1000ルクス以上のひたすら明るい蛍光灯照明下の量販店店頭用画質。「テレビ」「シネマ」は300ルクス程度の白熱灯を用いた通常のリビングルーム照度を想定。「シアターウォーム」「シアタークール」は、50ルクス近辺のかなり暗い環境での視聴を前提としたモードという。

 しかし、「シネマ」「シアターウォーム」「シアタークール」と、映画観賞用画質モードが3つもあるテレビなんて、ほかにあるだろうか。まずここに、同社開発陣が映画観賞用テレビとして本機の画質を丁寧に作り込んだ証があると、ぼくには感じられる。

 実際に画質を検証してみると、「シネマ」は普通の明るさの部屋で見て何の問題もない、よくできた画質モードであることがわかる。映画だけでなく、いわゆるフツーのテレビ番組を見てもじゅうぶん楽しめる画質だ。

 そして、液晶テレビとは思えない、上質なフィルムルックが得られる素晴らしい映画鑑賞用モードとしてお勧めしたいのが、白熱灯下50ルクスで観る「シアターウォーム」「シアタークール」である。これで観るナスターシャ・キンスキー、とくに後者の画質モードがもうほんとうに素晴らしいのだ。

 白熱灯下50ルクスというと、メモを取る手元がかろうじて見える明るさ。真剣に映像作品と対峙したいと思える暗さである。

 「シアターウォーム」と「シアタークール」の最大の違いは、色温度。前者は6500k(ケルビン)、後者は8000kである。また、画質を精査すると、「シアタークール」は「シアターウォーム」に対してややコントラストを強調、色相をマゼンタ寄りに設定していることがわかる。

 ここで問題にしたいナスターシャ・キンスキーのスキントーンに着目すると、「シアタークール」のほうがスラブ系美人の彼女のイメージに近く、ブロンドの髪もいかにもそれらしく見える。しかし「シアターウォーム」もけっして悪くなく、演出意図に沿った彼女の儚げな風情がより強調される描写となるが、こと肌色に関していうと「シアタークール」のほうが彼女の神々しい美しさが実感できるのである。

 テレシネ(フィルム/ビデオ変換)時にカラーコレクションするマスターモニターのの色温度が6500kで管理されているのだから、映画用画質モードも6500kに設定すべきという考え方があり、以前はぼくもその通りだと思っていた。しかし、パネルの素の色温度がそれより高い液晶やプラズマテレビでは、電気的にホワイトバランスを取り直して過度のRGB補正をかけて6500kの映像をつくることになり、実際多くのテレビの6500k画質は冴えないというのが、多くの製品をチェックしてきたぼくの実感だ。とくに白人女性の肌や金髪が不自然に黄ばんだり緑がかったりして、大きく落胆してしまうことが多い。

 実際、本機の6500kの「シアターウォーム」はナスターシャ・キンスキーの肌色はオレ的にイマイチだが、中国人女優のチャン・ツィイーを映し出すと、ぼくのイメージ通りの素晴らしい再現性を示す。そんなわけで、ぼくは密かに本機の「シアターウォーム」を“アジアン・ビューティ用”、「シアタークール」を“ハリウッド・ビューティ用”と呼んで、映画によって使い分けているのだった。

 さて、本機LT-42LH805の画質でもう1つ感心したことがある。それは、コントラスト表現、とくに黒の再現性のよさである。本機で採用されているIPSパネルは、視野角こそ広いものの、正面コントラストはVAタイプに劣るというのが、これまでの常識だった。

 しかし、たとえば映画後半。覗き部屋のマジックミラー越しに妻ジェーンと会話するトラヴィスの横顔を捉えたショットの陰影の深さは信じられないほど深い。暗所コントラスト3000対1を謳うVAパネル搭載機にまったく引けをとらない黒である。このシーンはトラヴィスの苦悩を表現しなければならない重要な場面。ここが黒浮きしては絶対ダメなのだ。

 これはひとえに本機のバックライト制御の巧みさにある。シーン全体の平均輝度レベルと画面全体をヒストグラム処理して明暗分布をモニターし、バックライトの螢光管の明るさをコントロールするこの手法、同社開発陣の絵ごころの高さ、技術の確かさを実感させる部分である。LEDバックライトによるエリア制御で見た目のコントラスト感を改善する技術が昨今話題を呼んでいるが、この映像を見ると、ビクターがこれを完成させたらそうとう凄いだろうなと期待したくなる。

 また、この難しいシーンの暗部階調の描写もよく粘り、じつに精妙だ。さまざまなソースを検証して設定されたと思える「インテリジェントガンマ」で10ビットパネルを駆動しているよさが出ているというべきだろう。

 さて、このビクターのフルHD“EXE”には、より大画面の47V型機「LT-47LH805」もラインアップされているが、色ムラなどに着目すると、パネル精度が42V型の本機のほうが一段出来がよい印象である。

 自分にとって本当に大切な映画を、本を読むように何度も繰り返し観る面白さ。そこにホームシアター趣味の愉しさの1つがあることは間違いない。貴方も自分だけのフェイバリット作品を見つけ、優れたディスプレイで味読して新たな発見を得るヨロコビをぜひ体験してください。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.