前例のない巨大なザクヘッド型充電台や、細部までこだわり抜いたデザインでガンダムファンの目を釘付けにした「913SH G TYPE-CHAR」。ファンなら誰もがうらやむこと請け合いのこの端末だが、たとえ夢描いたとしても、そう簡単に実現できるものではない。事実、ここまで作り込んだ端末は、今まで誰も見たことがなかったはずだ。
では、一体このケータイはどのようにして生まれたのか。ケータイジャーナリスト界の隠れガンダムファンとして知られる筆者こと石野純也と神尾寿氏が、913SH G TYPE-CHARの企画に携わったソフトバンクモバイルのプロダクト・サービス本部 プロダクト統括部 プロダクト企画部 課長の横田知氏と課長代理の大道伸氏、マーケティング本部 プロダクト・マーケティング部 プロダクト企画2課の吉田真佑氏、プロダクト・マーケティング部 プロダクト戦略課 課長の由本昌也氏にその開発秘話を聞いた。
石野純也(以下石野) まず初めに、開発に至った経緯を教えてください。普通の発想だと、なかなかここまでのものはできないと思うのですが……。
大道伸氏(以下敬称略) 実は数年前にも創通さんとはお話ししたことがありました。ただ、いろいろな事情があり、そのときは実現にいたりませんでした。そのつながりで、ちょうど去年の今頃に、たまたま創通さんからお話があったのが、今回の製品が実現したきっかけです。
僕もガンダムが好きだったので、まずは自分が面白いものを考えていこう、と決めました。それでも、やはりビジネスとのバランスをどの辺りで取っていくか、という部分は悩みましたね。あまりやりすぎると、外で使うのがためらわれますから。端末本体は外で使っても恥ずかしくなく、分かる人にだけ分かるという“本物感”を目指しました。
石野 ノーマルの「913SH」があって、シャア専用があるというのがいいですね。913SHのカラーバリエーションにはレッドがないですし。
神尾寿(以下神尾) 私も、913SHのポテンシャルはこの形の方が発揮できていると思います。
大道 それは別に狙っていた訳ではないです(笑) むしろ今気が付きました。913SHは、企画を進めていく中で一番近未来的な端末だった、という理由でベースモデルに選んでいます。
石野 なぜ充電台がザクの頭になったのでしょうか。
大道 プラスαで面白いアイデアを考えましたが、シャアといえばやっぱりシャアザクかなと。端末を入れるとモノアイになるという仕掛けを用意すれば、充電自体も楽しくなると思いました。913SHだったら、閉じると全面がディスプレイになるので、ザクのモノアイにもしやすいですしね。シャア専用、充電台、913SHの3本柱で、社長の孫にプレゼンをすることになりました。
神尾 孫社長の反応はどうでしたか?
大道 率直に「お前はアホか」といわれました(笑) そんなにいきいきと話しているヤツはみたことがない、という意味でですけどね。最終的に、「オレにはよく分からないから、やってみろ」という形で承認を得ています。
そうやって色々と進めていくなかで、「なんだこのデカさは」とも言われました(笑)。端末をキチンと収めて、モノアイのサイズから割り戻すと、充電台の大きさは12分の1というスケールが出てきたんです。ちょうど12分の1という数字はガンダムが好きな人にとっても親近感のあるもので、偶然ですが、「HYPER HYBRID MODEL」と一致します。
インパクトを出す上で、小さなザクの頭では面白くありません。ワクワク感などを演出するのにちょうどいいということで「これしかない」と決まりました。もちろん、家に置けるのか、という点なども十分考えましたけどね。
神尾 2006年の段階で創通さんから話が来たときは「シャアザクをやりませんか」という形だったんですか?
大道 いえ、「ガンダムで何か」というお話でした。
石野 なぜシャアだったんですか? 愚問かもしれませんが……。
大道 個性があって、世界観があって、ファンもいて。分かりやすいし、モノにしやすいし、考えやすいし、しかも好きだし(笑)
神尾 やっぱり連邦よりジオンなんですか? ソフトバンクがジオニズムなのかなと。で、他キャリアは“重力に魂を縛られたオールドタイプ”と(笑)
由本昌也氏(以下敬称略) それはよく言われます。
大道 あまり好き嫌いはないですけどね。「ギレンの野望」(編注:ジオン軍視点のシミュレーションゲーム)をやる時は必ず連邦から始めますし(笑)
神尾 オレは連邦派だからガンダムじゃなきゃ嫌だ、という人はいませんでしたか?
石野 一歩引いて考えると、ガンダムケータイはやっぱりガンダムじゃないかなぁ、という気もするのですが。
大道 でも、それこそ連邦ケータイを作りませんかといわれたらちょっと考えたかもしれません。言い方は悪くなってしまいますが、カラーリングや、バックグラウンドのストーリーを考えると、“大人の道具”というところとマッチするのかどうか、少々疑問です。
横田知氏(以下敬称略) 最初の(シャアに絞っていない)段階では周りの受けもあまりよくなくて、今のシャア専用ケータイのデザインを出したときに、「あ、これかっこいいよね」と、周りの反応も変わっていきました。
大道 シャアという人が持っているケータイはどういうものだろう、ということを想像するところからスタートしています。軍人なんだから、当然軍から支給されるだろう、とか(笑) 「ジオン軍のマーク」だったり、「ジオニック社製」だったり、カメラを作っているのが「グラモニカ社」だったりと、細かい部分まで色々と考えています。グラモニカを知っているのは相当マニアですけどね(笑)
石野 モノアイを作っている会社ですね。ちなみにチップは……
神尾 アナハイム・エレクトロニクスですか(笑)
大道 そのようにいろいろと劇中の設定を考えつつアイデアを膨らませて、デザインなどを作り込んでいきました。
石野 ソフトバンクとジオニックのロゴが並んでいるのは、「宇宙世紀まで生き残る会社はうちだけだ」という意気込みですか?
大道 いえいえ。単なるシャレです(笑)
吉田真祐氏(以下敬称略) 面白いじゃないですか。ソフトバンク、ジオニック、グラモニカという並びが。ありえないだろ、という感じで。
横田 今回は電源を入れたときのオープンニングやシャットダウンの際に出る「SoftBank」のロゴも外していますし、NetFront Browserを提供しているアクセスのロゴも出ないようになっています。
神尾 細かな部分ですが、権利的には交渉が大変ですよね。
横田 そうですね。実は913SH G TYPE-CHARにはバッテリーカバーが2枚入っています。FeliCaチップが入っている端末には、絶対にFeliCaのロゴマークを付ける必要があるので、FeliCaロゴのないバッテリーカバーだけを付けて出すことはNGなんです。そこで、あくまでサンプルという形でFeliCaロゴなしでジオン軍のマークを入れたバッテリーカバを添付していまして……
神尾 出荷時にはFeliCaマークのカバーを本体に装着しておいて、取り替えるならご自由に、ということですね。そこまでやるなら、SIMカードもシャア専用にしてほしかったです。
石野 赤いSIMカードって、ボーダフォンじゃないですか(笑)
大道 シャアの赤はあそこまで真っ赤ではないですね。ただ、実際シャアのパーソナルカラーである“赤”に明確な規定があるわけではないので、色にも相当こだわりました。ピンクに振るとどうしてもおもちゃっぽくなってしまいます。端末はメタリックな色にして、大人っぽさを出せたかなと思います。
横田 静電パッドの部分もノーマルの913SHとは違うんですよ。
神尾 お〜。ジオン軍のロゴになっているんですね。こだわりましたね。
石野 これは、金型から変えないといけないのではないでしょうか。
大道 そうですね。変えています。
石野 ダイヤルキーの書体もオリジナルですか。
大道 はい。ノーマルの913SHとは別のものです。ちょうど70年代後半〜80年代のゲームに使われているようなフォントを使っています。発表会では「宇宙世紀をイメージした」と紹介しました。
神尾 913SHがベースですが、外観はかなり変わっていますね。ここまでデザインを変えてしまうと、ゼロから作るほどではないですが、相当お金がかかっていますね。
石野 普通に考えると、メーカー名が“架空のメーカー”というのもすごいことですよ。
横田 一応、箱には小さくシャープさんの社名も入っていますが……
神尾 きっとシャープは「将来的にモビルスーツまで作る」という野望があるんですよ(笑)
大道 言葉が悪いかもしれませんが、このケータイは、シャレのかたまりなんです。もちろん、現実にクリアしなければいけない課題はありましたが、作り手としても楽しみながら考えていけました。
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