ITmedia NEWS >
コラム
» 2007年12月03日 10時00分 公開

小寺信良:目指すのは「そこそこの世界」か (2/3)

[小寺信良,ITmedia]

ダビング10に潜む3つの問題

 9回ダビング+1回ムーブというのは、数としては一見十分なように見える。権利者側が、これだけの回数を飲んだという点は評価できるだろう。だが、コピーワンスの何が不便かという点の解消には、実は1/3しか答えられていない。

 現行のコピーワンスの実態は、1度のコピー(複製)も許さないという事である。なぜならば、放送を録画した時点で、すでに1回コピーしたとカウントされるからだ。したがってレコーダーでHDDに録画したなら、それ以降はすべてムーブとなる。

 さてこのとき、別メディアにムーブする際に何かのトラブルで失敗したら、コンテンツはHDDからもメディアからも消えてしまう。これが問題の1つ。

 2つ目の問題は、解像度を落として別メディアへデジタル転送するソリューション、例えばiPodを始めとするPMP(Portable Media Player)や携帯電話、あるいはPSPのようなゲーム機で移動中に録画番組を視聴するということが、事実上コピーワンスでは不可能であることだ。ムーブならば可能ではあるが、それも結局失敗したらどうなるのかという答がない。

 3つ目の問題は、コンテンツの継承である。例えばDVDにムーブした番組を大容量の次世代DVDにまとめたい、またこれからの経年変化に備えて、5年ごとにバックアップを作りたいといった、メディアの世代交代ができない。

 では、ダビング10ルールになったときに、どうなるだろうか。ムーブの失敗は、すでに差し迫った問題として存在するため、早急な解決が望まれる。ダビング10ならば、例え1回失敗してもまだ9回チャンスが残っているため、ひとつの解決になるだろう。

 別プレーヤーへの転送は、現状アナログ放送があるので、今のところさほど困っていない。だがアナログ放送停波が2011年に決まっている以上、必ず訪れる問題である。

 ダビング10ルールでは、アナログ経由のダビングは制限がない。しかしアナログ経由ということは、転送に実時間かかるという意味である。これではデジタル技術の恩恵は受けられない。

 一方でi.LINKなどのデジタル伝送は、COGの制限は受けるものの可能になっている。つまり10回のうちの何回かを消費することで、外部プレーヤーへの転送ができることを示唆したものだろう。

 だがこれはプレーヤー側から見たときに、過去ソニーがPSPをサポートした例があるだけだ。「PSPができるからこの問題はクリア」という話ではないだろう。おそらく全国内メーカーが広くサポートしたがるのは、携帯電話だけである。JEITAにしてみれば願ったり適ったりだろうが、これは一種、文化的鎖国に近い。

 日本の場合、映像コンテンツの配信インフラとしては、放送が大きな比重を占めている。もともとテレビ放送とは、リアルタイムでテレビの前に座って視聴するものであったが、レコーダーとポータブル機の進歩によって、これらの文化は変わっていくはずだったのだ。それはウォークマンの登場によって、音楽はリビングでステレオで聴くものではなくなったという事と同じパラダイムシフトである。

 ポータブル機に持ち出せないということは、視聴損失が増えるということである。録り貯めてはいるが、見ないままに消されていくコンテンツが増えていくということだ。この結果起こるのは、テレビ離れというか、放送コンテンツ離れである。テレビというのは、いったん見なくなれば、別にそれで困らないという人も多いものなのだ。

 ウォークマンの登場で、音楽産業は壊滅的な打撃を受けただろうか。実態はその反対で、音楽に対する需要は大幅に拡大したはずだ。1980年代に邦楽が斜陽となったのは、その需要がもたらす利益を、すべてレンタルレコード事業に取られてしまったからである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.