この冬のAVシーンで注目すべきトレンドの1つに、AVアンプ市場の活況が挙げられる。とくに高級機ゾーンが面白い。と言うのも、BD ROMやHD DVDのハイビジョン・パッケージソフトに、リニアPCMマルチチャンネル音声や圧縮・解凍時にデータ欠落の生じないロスレス圧縮音声、すなわちドルビーTrue HDやDTS-HD MA(マスターオーディオ)などの“HDオーディオ”と呼ばれる超高音質なサラウンドサウンドが収められるようになり、それら高級機がこぞってそのHDオーディオ用デコーダーを積んできたからである。つまり、プレーヤー(やレコーダー)からのHDMI Ver1.3ビットストリーム出力を受けて、AVアンプで超高音質サラウンドサウンドを圧縮解凍することが、この冬から可能になったというわけだ。
BS hiやWOWOWなどで、画質のよいハイビジョン・プログラムがふんだんに空から降ってくる世界唯一の国・ニッポンにおいては、BDやHD DVDのパッケージソフトならではの魅力を、ぼくはこの音質のよさに求めたくなる。
実際、わが国のハイビジョン放送に採用されている圧縮・解凍時に情報欠落が生じるロッシーコーデックのAAC音声で収録されたものと、ロスレスHDオーディオで収録された同一作品のBDソフトを聴き比べて、その音質差にはげしく驚かされたことがある。それは、それなりのサラウンド再生環境を整えてみれば、誰にでも分かる“違い”である。
そんなわけで、この秋以降各社から発売されたHDオーディオ対応AVアンプを一通りチェックしてみたが、さすがに気合の入った仕上がりの製品が多く、1980年代半ばのドルビーサラウンドの提案から幾星霜、21世紀にふさわしい本格的なハイファイ・サラウンド時代が到来したことが実感できる。そこで、本連載では3回連続で、HDオーディオに対応した3社の旗艦モデルそれぞれの魅力について述べてみたいと思う。
まずトップバッターは、ヤマハ「DSP-Z11」である。ヤマハは1980年代から世界中の音がよいとされるホールの音場データを採取し、リスニングルームにその響きをそのまま、または加工して付加する独自の音場創成技術「DSP(デジタル・サウンドフィールド・プロセッサー)」を提案、90年代以降はそれをドルビーサラウンド等と掛け合わせる「CINEMA-DSP」に発展させ、世界中に数多くの熱心なヤマハAVアンプ信奉者を生み出した。
本機DSP-Z11は、20年以上にわたって音場創成技術を磨いてきたそのヤマハが、「HDオーディオ時代のリファレンス」を目指して完成させた、この冬注目のフラグシップモデルである。
とくに本機で興味深いのは、サラウンド&サラウンドバック用スピーカーの他に、フロントプレゼンス用スピーカーとリアプレゼンス用スピーカーを加えた「シネマDSP HD3(キュービック)」の提案。つまり、7.1chシステムにプレゼンス用スピーカーをフロントとリアに2 本ずつ加えた11.1ch再生である(サブウーファーを2基設置する11.2ch再生も可能)。実際にその再生環境を整えて聴いてみると、この音がほんとうに素晴らしい。
さまざまなプログラムソースを「シネマDSP HD3 」で試してみたが、とくにその音に深く感動したのが、ドルビーTrue HD 音声で収録されたBD「硫黄島からの手紙」である。
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