「硫黄島からの手紙」は、アメリカを代表する巨匠となったクリント・イーストウッド監督が、日本語を話す日本人俳優を使って、太平洋戦争末期の硫黄島での日米両軍の戦いを日本側の視点で描いた映画で、米兵の目で国家と戦争を見つめた「父親たちの星条旗」と対をなす作品である。
今年2月のアカデミー授賞式で音響効果賞を獲得したこの作品、戦場の激しい闘い、暴力のすさまじさを強烈に印象づける強烈な音が随所に緻密に張り付けられている。ドルビーTrue HD音声で収録された本作のBD版なら、通常の5.1chシステムで聴いてもそのすごさはじゅうぶんに分かるが、DSP-Z11の「シネマDSP HD3」で体験してみて、これは映画館をはるかに超えたリアリティ、ヴァーチャルな戦場体験を彷彿させる音が聴ける作品だということがよく分かった。
例えば、硫黄島に圧倒的な兵力で上陸する米軍との闘いが始まるチャプター14に注目してみよう。海と空から硫黄島に攻め込む米軍の動きを双眼鏡でじっと観察する栗林中将(渡辺謙)。その後ろに低く流れるコントラバスによる通奏低音が緊張感を高めた後、栗林の「攻撃開始」の命令とともに、両軍の激しい闘いが始まる。
DSP-Z11のドルビーTrue HDストレートデコード再生でも、効果音の1つ1つに苛烈な暴力の匂いがていねいに張り付けられているのがよく分かるが、シネマDSP HD3でこのチャプターを体験すると、空間の密度感が向上し、よりいっそう表現の深みが増すことが分かる。冒頭の通奏低音も、プレゼンス用スピーカーを加えることで音に厚みが増し、物語の悲劇性がより高まる印象だ。
その後の激しい戦闘シーンでも、効果音の1つ1つが空間でみごとに溶け合い、広大な音場の中で、暴力のすさまじさと戦争の無慈悲さがクローズアップされていく。とくにサラウンド・チャンネルに張り付けられた爆撃音の衝撃はすさまじい。「硫黄島からの手紙」の音の凄さをここまでナマナマしく伝えてくれるAVアンプは他にないのではないかと思う。
本機で提案されたシネマDSP HD3について少し解説を加えたい。
そもそもシネマDSPとは、サラウンドデコードされた音声にヤマハが加工した響き成分を加えて、独自の臨場感を演出したものである。DSP-Z11のシネマDSP
そしてこの状態に、仮想音源の反射音を受け持つフロントプレゼンス用スピーカーを加え、メインのL/R用スピーカーにも直接音の他に仮想音源の反射音を加えたのが「3DシネマDSP」。この7.1ch(サラウンドバック用スピーカーを設置した場合は9.1ch)システムで「硫黄島からの手紙」を観ると、空間の高さ方向の広がりがよりいっそう向上し、戦場の闘いのダイナミズムが拡張されることが分かる。
そして、この状態にリアプレゼンス用スピーカーを加えて9.1ch(サラウンドバック用スピーカーを設置した場合は11.1ch)システムに発展させたのが「シネマDSP HD3」である。フロントプレゼンス用スピーカーのみの「3DシネマDSP」に比べると、先述したように空間演出力がより研ぎ澄まされ、高さ方向だけではなく、水平方向の音の密度感も向上する。
ホームシアター内がみっちりと音で埋めつくされ、息苦しさを感じるほどの濃密な音場空間が構築されるのである。「シネマDSP HD3 」で観る「硫黄島からの手紙」は、戦場の匂いや湿度までを想像させる究極的な音のヴァーチャルリアリティ・ワールド。観る者に居住まいを正して観なくてはと思わせる、迫真的な訴求力を持っていることは間違いない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR