ダビング10やB-CASカードの存在に象徴される無料放送のDRM問題は、ネットでは火が付きにくい。なぜならば、ネットが直接関係ないからである。
しかし、これから放送・通信融合時代に突入するわけであるから、まんざら無関係というわけではない。さらに放送側で問題になっているのは、ネットへのコンテンツ流出である。ネット側で一方的に「オレ、テレビ見ないからー」では済まさない。これからは「インターネット」と「放送」の区別も付くかどうか怪しい人間達が、向こうから勝手に大挙してネットに押し寄せてくる時代に突入する。
1月16日に行なわれたMIAUのシンポジウム「ダビング10について考える」では、上武大学大学院教授の池田信夫氏から、B-CASカード導入の闇について語られた。ITmediaでもニュースとしてこれを伝えている(関連記事)が、残念ながらこの話を新聞各社が取り上げることはないだろう。
なぜならば日本の場合、大手キー局の親会社がことごとく新聞社だからである。つまり放送制度に対する批判は、テレビ・新聞とは無関係のネットのようなメディアでしか報道されることがない、タブーなのである。
シンポジウムの中で池田氏も語っているように、以前からB-CASという仕組み、およびその運営会社は、独占禁止法違反、個人情報保護法違反ではないかという批判が強かった。それが改めてメディアのニュースの中で報道された意義は大きい。それ以外の問題点については、Wikipediaの記述に詳しい。
B-CASカード撤廃に関しては、これ以外の方向からも急速に事態が進むだろうと思われる。総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委員会)でも、すでにB-CAS廃止の方向で動き始めている。
第1に権利者団体が、B-CASシステムに対して反対している。あたかも権利者団体の要請によってこのシステムが入れられたかのように語られていることが不本意である、というのが大筋の意見だ。すでに多くのニュースで語られていることだが、B-CASシステム導入に関しては、権利者代表も、もちろん消費者の代表も関わっていない。
第2に、B-CASカードをさすだけでコピーコントロールなしの信号を出力できる「フリーオ」の出現が大きかった。これまで、B-CASカードの暗号化は絶対に破られるはずがないと豪語していた放送・機器メーカー側の主張が、まったく別のルートからあっさり無効化されてしまうことが、架空ではなく実際の製品で証明されてしまった。
つまり販売・流通側に尊法意識がなければ、このシステムはまったく役に立たないのである。そこで今後は、カード認証による技術的エンフォースメント(ここでは権利保護の実行という意味)ではなく、制度的エンフォースメントに移行すべき、という流れになってきている。
ただ著作権法でも技術的保護手段の回避に関しては、120条の2において「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」という罰則が設けられている。仮に放送波のスクランブルがなくなっても、ダビングに関してのDRMが残る限り、著作権法の適用は受ける。これ以上の制度的エンフォースメント構築する意味があるとするならば、ダビング10のような保護機能もなしにしなければならない。
いずれにしても、すでにB-CASカードはいらない、というコンセンサスは取れつつある。黙っていてもいずれ潰れるものだが、それを公取委が華々しい実績として株を上げるのも悪い話ではないはずだ。新聞・テレビメディアが沈黙しても、ネットメディアが黙っていない。巨大な世論の支持が集まるだろう。
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